アキラ君の「ちょっと待ってよお兄ちゃん!」 12
時々、後ろを振りかえってたんだ。
『でも、何で!?』
「何で、俺なんかを見てるんだよ。
自分の事だけ考えてればいいじゃないか!」
「それだけは、口が裂けても言えないな」
そう言うと、自分の部屋へ戻っていった。
ただ、この部屋を出ていくとき、ちらりと俺の方を見てきた。
『お兄ちゃんはそうやって、俺の事を見てきたんだ』
その瞬間、俺の中で何かがコトリと、音を立てた。
俺も、この部屋を出た。
自分の部屋じゃなく、お兄ちゃんの部屋へ行く為に。
俺はお兄ちゃんの部屋の前で、立ち尽くしていた。
『今中で、何してるのかな?』
気持ちはとっくに決まっている物の、行動に移すことができない。
『そう言えば、真由美さんのお下がり!』
真由美さんが持って来てくれた服のことを思い出した。
『女物の服を着れば、行動に移せるかも』
女の子的発想でさっきの部屋へ戻り、その服を着た。
「なに、これ…?」
真っ赤な生地にデカデカと金色に輝く文字の列。
形はいわゆる、今は絶滅して久しい、長ランと呼ばれる違法改造学生服。
それに付随する晒しにハチマキ。
「こ、これはもしや、特効服という奴でわ!?」
下着をトランクスからショーツにはき替え、胸に晒しを巻き、特攻服を見に纏い、最後にハチマキ巻いて、戦闘準備完了。
した時点で、気が付いた。
「まぁ、い〜や」
何はともあれ、これでお兄ちゃんのドアを叩く度胸が付いた事は間違い無い。
「兄貴、入るぜ」
そう言ってから、ドアを開ける。
何だか、口調まで変わってしまった。
その瞬間、目が点になった。
「あ………」
「え〜、と……」
俺と兄貴は、気まずいし先を交し合う。
兄貴は部屋の中で一人、マスなんぞかいてやがった。
「……邪魔したな」
俺は部屋を出てドアを閉めた。
―特攻作戦、失敗―
「はぁ〜」
俺は自己嫌悪の溜め息を吐く。
「何やってんだろ…」
あの後俺は自分の部屋に戻り、今服を脱いで綺麗に畳んでいる。
「あのまま行っちゃえば良かったかなぁ」
「何を行っちゃうの?」
突然掛けられた声に、俺は振り向いた。
そこには真由美さんの姿があった。
「後免ねぇ、服間違えたわ」
手に提げた紙袋を、俺の前に放り出す。
「そっちが渡す服だったわ」
いやぁ参ったわね、と言いながら苦笑いを浮かべる。
どうすれば、あんな服を間違うと言うのだろう。
着るまで気付かなかった俺も俺だけど。
「本当に女になったのね」