姉・妹ぱらだいす 3
「いっくん、亜衣、また帰りにね」
「頑張ってね杏奈姉」
杏奈は僕らが降りるひとつ手前の駅で降りる。
確かあの辺りには結構な進学校の私立校があったな。もしそこならかなり頭がいいんじゃないか。
「ふふ、これからはお兄ちゃんと一緒だ」
亜衣ちゃんのスカートも結構短い。
女の子にしては背が高めで足もスラリとして長く、かなりスタイルがいい。
「お兄ちゃん、部活入ってる?」
「別に。いろいろ余裕がなかったし、人間関係とかも嫌だし。格差とか出身中学とかうるさいし…やっぱり僕も店の手伝いしなきゃダメかな?」
「人手は足りてるよ。杏奈姉が頑張ってるし。まずお兄ちゃんは、あのお店を好きになって」
「…うん」
コンビニのことを言ってると分かってるのに、サイドテールの美少女に言われるとドキドキする。
「お兄ちゃん、本好きだよね?立ち読みし放題だよ。お店なら」
「いいの?葵さんがいるんだろ?」
「お客さんが一人もいなかったら、逆に入りにくいの。時間帯によっては」
「地味なフォローなら、僕にも出来そうだ」
「今日は手作りお弁当だけど、今度からはお店のになるよ」
「いいよ、今まであのまずい食堂でずっと食べてるから、文句はないさ」
学校の食堂の味は褒められたもんじゃない。しかし値段が良心的だから頼っている。
コンビに弁当を持ってきてもとやかく言われることはないし、僕の悪友たちは家庭事情を理解してくれているから周りでよからぬ噂がコソコソ広がることもない、はず。
もしそうだとしてもこんなに可愛い妹が、美人な姉たちがいるんだ、それだけで心強い。
亜衣ちゃんとは下駄箱で別れ、今日も勉学に勤しむ。
彼女たちの存在は大きい、昨日とは気分も全然違った。
一時はブスでもクズでも母親がいればと願った事もあったけど、今や五人全員女性で華やかだ。
しかも、これまで便利でも割高で古本屋やリサイクル店より敷居が高いと感じていたコンビニが生活を支えている。
どんな幸運が重なったか知らないけど、雇われ店長でなく自分の店というのもすごい。
杏奈なんかはもし赤の他人だったら、モロパンどころか電車で真向かいにいただけでスカートの中を見たとか真相よりも先に憎悪をぶつけてきかねないキャラも今では身内だ。
亜衣ちゃんだってもしも同じ部活なら後輩だけど、才能やコミュ力もない僕では相手にもされない筈なのに、姉妹の中で一番話しやすい。
そんなことを考えていると、体育もないせいかいつもより早く午前授業が終わる。少なくとも、そんな気がした。
急に弁当になったから、教室で一緒に食べる相手もいないし、第三の選択を取る。屋上には上がれないけど、体育館の周りにベンチがあったので、そこで食べることにした。
幸い僕以外に人はおらず落ち着いた空気の中でお昼を食べることができる。
可愛らしい弁当箱の蓋を開けると手の込んだ料理が所狭しと並んでいる。
見た目からして美味しそうだ。
「お兄ちゃん、やっぱりここだ」
「亜衣ちゃん?」
ここで会うのは予想外だ。
「亜衣ちゃんも友達がいないなんてことは…」
「そうじゃないよ。お兄ちゃんが心配だったの」
「僕は別に…」