お義父さんは男の娘! 9
気分は不思議と悪くはない。晶の喜ぶ顔を見ると私も嬉しいのだ。
だが、欲張りの私はこれだけではとても物足りない。
見たい……昨夜のようにこいつの乱れる姿を。まるで女の子を襲っているようにいけない気分に、背筋をゾクゾクとさせる快感を、もう一度――。
(――って何考えてるのよ。母さんは夕方には帰って来るっていうのに……それにこれじゃあまるであいつと同じじゃないか)
――あの獣鬼畜ゴミ元父と。
(私は違う……!あいつのようにはならない…!母さんと晶、どっちも大切な家族なんだから)
「奏ちゃん?」
私が急に黙りと考え込んでしまったので、不思議そうに晶は眺めていた。しかし私はそれに気づかない。
(そうよ…!気をしっかりと持たなきゃ。母さんも晶もちょっと天然な所があるから私が――)
ぴとっ
「っ!?」
「ん〜……ちょっと微熱かな」
突如、額に感触がして我にかえった私の目に映ったのは晶の顔。
晶は、急に黙った私を心配して一生懸命背伸びしながら私と自分の額に手で触れて熱を比べていたのだ。
「一応冷やした方がいいかも。ちょっと待っててね、冷蔵庫にあるか探してみるから」
そう言うと晶は後ろ向いて冷蔵庫の方へ向かうとする。
こいつはどれだけ私が我慢をしているか分かっているのだろか?もし知っていてやっているというなら腹黒認定してやる所だ。
だが普段の様子から察するにこれは紛れもなく素の行動なのだろう。だからこそ余計に質が悪い。
(いいわ…晶がその気なら私にも考えがある…)
私はすかさず両手を伸ばし晶の肩を掴んだ。
「奏ちゃん…?」
振り向いて不思議そうに見つめる晶。
(本当に無防備ね……昨日の今日でもう警戒を解いてしまうなんて。けど、そこがまた良いんだけど)
「どうかしたの?」
「熱は大丈夫。それより私…お腹空いちゃった」
ここまで来たら認めたくないが認めてやろう糞ゴミ元父。
「あ、じゃあ戸棚にクッキーあったから少しなら食べていいよ」
私は間違いなく――。
「そっちじゃなくてこっちが食べたい」
「ふぇ?―――んんっ!?」
――あんたの娘だ。
な、なんで?どうしてこんな事になったの!?
僕、本宮晶はいつものように夕飯の準備を終えた後、今度の買い物の参考に近所のスーパーのチラシの特売情報を眺めていました。
すると、しばらくして奏ちゃんが帰って来て挨拶を返したら大急ぎで走って来て弁当箱を渡してきました。
中身は綺麗にごはん粒一つ無く残さずに食べて来たので僕は偉いねと言いました。
更に奏ちゃんは僕の作ったお弁当を美味しかったと言ってくれたんです!嬉しいな〜〜〜っと終わる筈だったんですが……。
急に奏ちゃんが眉間にしわをよせて黙ってしまったので僕は不思議に思い、考えた末に熱でもあるんじゃないのかな?と思って、背伸びをしてひとまず、自分のと奏ちゃんの額にそれぞれ触れて比べてみる事にしたんです。
結果的に言えば微熱だったのですが念には念を……と思って冷蔵庫に熱さ○シー○が無いか探そうと後ろを向いたら、奏ちゃんに両肩を掴まれて正面を向けさせられてしまいました。
不思議がる僕に奏ちゃんは、熱は大丈夫だから代わりにお腹が空いたと言ったので僕は戸棚にクッキーがあるよと返事を返した次の瞬間――。
再び奏ちゃんに唇を奪われてしまいました……。
「んちゅ、むちゅ……ちゅう……」
「ちゅ……くぅ……むっ……んむ……」
奏ちゃんは僕の唇に吸い尽くようにキスをしてきます。逃げようにも非力な僕ではがっしりと掴まれた手からは逃れられません。
「んんぅーー!?」
おまけに口内には次々と唾液を流し込まれてしまい、吐き出すわけにはいかず、飲み込まないと息継ぎも出来ない状態です。
「んふぅ……ゴクんッ…!」
「ぷはっ………よく出来ました」
奏ちゃんは僕が全部飲み込むのを確認するとちょっとだけ満足した様子で唇を放しました。
それとは対照的に僕は悲しい気分です…。
「奏ちゃん……どうしてなの…?もうこんな事しないって僕と約束したじゃない…!」
「したっけ?セックスならした記憶あるけど」
「よくこの状況でそんなボケが出来るね!」
「?…なんでそんなに怒ってんの」
「当たり前だよ!!キ、キスなんてそ、そんな軽々しくしちゃいけないの!」
「へー」
奏ちゃんは明らかにお腹から出ていないだろうと思われるやる気のない声で返事を返した。
そしてもう一度キスをしようと唇に迫って来ました。僕は必死に手で拒みます。
「奏ちゃん!僕の話聞いてたの!?軽々しくしちゃいけないってさっき――」
「知ってる。好きな人が出来た時の為にとっておけって言うんでしょ?」
「!?分かってるならなんで――」
「―――だからあんたなの!私はあんたが……晶の事が好きなの!!」
「え……?」
その瞬間、時が止まったように感じました。
奏ちゃんが僕を……好き……だって?
「あんたに初めてあったあの日……母さんに紹介されたあの日から私はあんたが好きだった。家族ではなく異性として…!だけど義理のお義父さんに恋なんて世間で認められ筈もないし、何より私をここまで育ててくれた母さんを悲しませたく無かったからずっと我慢してた…!」
奏ちゃんはぷるぷると小刻みに震えながら僕に詰め寄ってきます。
「か、奏ちゃん……」
「ねぇ晶は私の事……嫌い?」
不安げな表情で僕に訊き返す奏ちゃんはいつもよりも儚げに、小さく見えました。
(正直に伝えないと……今の奏ちゃんは訊くまで引き下がりそうになさそうだよ…)
僕の正直な気持ちを――奏ちゃんに。