姉、僕、妹、妹 61
僕はこの男と徹底的に戦うことにした。
「てめぇ口先だけで……」
「刑法第208条……」
「あぁ?」
「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。」
僕がここまで言うと相手の男は黙った。
「うわぁ……こいつ地雷踏んじゃったよ……」
「見た目だけで因縁つけリャ勝てると思ったんだね……」
周りのささやきが聞こえる。
「尚、これは親告罪(訴えたことによって罪となるもの)ではないこと、及び民事訴訟において請求できる慰謝料はこの『30万円以下』に含まれないことは分かりますよね。」
と更に僕は続けた。
「こいつ……」
「何ですか?」
「バカか?」
「『バカ』と仰いましたか?刑法230条名誉毀損罪及び231条侮辱罪、といった所ですね。」
「地雷破裂したわ……」
また誰かが囁いた。僕は続けた。
「いずれにしても貴方は刑法犯となるわけですよ。」
「て…てめぇに何の権利があるんだよ!」
「刑事訴訟法第214条、私人による現行犯逮捕ですね。僕が貴方を捕まえた時点で逮捕が成立します。そのまま鉄道警察に行って頂ければ良い訳ですね。さて、如何されますか?」
ここまで言った所で
プシュ〜
電車が止まり扉が開いた。
「覚えてろよ!」
その男は走って逃げて行った。
「逃げるつもり……」
僕が立ち上がろうとするとお姉ちゃんに腕を掴まれた。
「その辺にしときなさい!」
「……はい…」
「あら?私には素直ね。」
「う……」
「ふふふ。」
パチパチパチ
まばらだが拍手が起きた。
「すげーじゃん。」
「見直したわ。」
同級生も何人か乗っていたのでちょっと照れくさかった。
「まったく……アンタわざわざ喧嘩することないじゃない。」
「お姉ちゃん……でも……あれはあっちが……」
「もうやっちゃダメよ。」
「僕に……因縁つけて……」
「やっちゃダ・メ・よ!」
「はい……」
すると
「私には弱いのね。」
「『侮辱罪』だよ……」
「それは親告罪でしょ?私を訴える気?」
やっぱりお姉ちゃんにだけは敵わない。