他人のモノになった、あの娘 73
丁度、彼女の住む家の側にコインパーキングがあったからそこに止めて動きを待つ。
そうしていると、タクシーから降りる人影。
OLらしき人影だった。
「華ね・・・」
「そうか・・・」
車の中だが、小声になってしまう。
僕は受信機のスイッチを入れた。
この受信機は、所謂盗聴器の受信機だ。
同期に『佐藤華がヤバい事に巻き込まれている』とある程度の事は話してボールペン型の盗聴器を鞄に入れて貰った。
いきなり接触すれば怪しまれるかもしれないし、洗脳のようなもので男の不利になるような事は拒絶されるかもしれない。
なので情報収集から行って隙を探す。
後は昼間も張り込みに誰かを送って、ホスト崩れの男の行動パターンやら母親の生活を監視していくつもりだ。
そんな僕達が居るコインパーキングの前を通り、向かいにあるアパートの階段を登る華。
鉄階段を踏む音が受信機を通してハッキリ聞こえる。
感度は良好のようだ。
そして、こんな夜中にも関わらず開いた扉からは灯りが漏れ、そこに華が入って行く。
入って靴を脱いでる音や歩く音。
そしてドサリと鞄を置く音。
その音に続いてガラリと扉の開く音が聞こえた。
「遅かったじゃねーか」
男の声がした。
この声が件のホスト崩れだろう。
「ごめんなさい」
謝る声。
華だと思うが、疲れた声に悪い感情は無い。
「今日もちゃんと稼いで来たか?」
「うん・・・ゆー君の為だもんね・・・しっかりやってきたよ」
男の声にどこか嬉しそうな華の声。
僕と千秋は顔を見合わす。
これは少しマズいかもしれない。
「じゃあ、華を可愛がってやらないとな」
「嬉しい!すぐに可愛がって!」
そんな会話の後、またドアの音。
「待って!華は寝かしてあげて!」
「ママッ!」
後から来たのは華の母親だろう。
「産後すぐだし、明日も仕事なんだからっ!・・・華は寝かせてあげて!」
「ママッ!邪魔しないで!」
こちらも疲れた声の母親に華の方が怒り気味に返す。
「ママだって産後すぐでしょ!!・・・それに散々ゆー君に可愛がって貰いながら狡い!・・・今だって裸でさっきまで可愛がって貰ってたの丸出しじゃない!」
このやり取りを見るに、華の方がどっぷりハマっている感がある。
だが、帰宅時の疲れ切ったあの様子を見るに、華の体力は尽きかけているようにも見えるし、労働時間で考えると過労死ラインだ。
それを分かっている母親が止めようとするが、嫉妬心で状況が見えなくなってる華には通じない。
と言うか、ホスト崩れが嫉妬心を上手に利用してるような気がする。
「勿論、華は可愛がってやるさ・・・由香里と違って華は俺に全てを捧げてくれるからな」
「嬉しい!ゆー君大好きっ!」
どうやら母親・・・由香里の方がそこまでのめり込んではいないようだ。
だが、ホスト崩れと肉体関係があり子供まで産んでる所を見ると、ホスト崩れに逆らうまでは行ってないみたいだ。
その後、チュパチュパとキスするような音と、ホスト崩れの『由香里も来いよ』の言葉に素直に由香里も従い、受信機が2人の嬌声を拾う。
この時間から抱かれたら、華の睡眠時間は3時間程度・・・
早くどうにかしてやらないと、彼女の体力が尽きそうだ。
同期から「最近の彼女はやつれていて心配」と聞いたが、その原因はまさにここにあるといってよく、しかも妊娠、出産を経ているのに産休・育休を取得する気配もないから余計に社内で不思議にみられていたという。
同僚が「大丈夫」と尋ねると即座に「大丈夫です!」と元気に言っていたようだが…
「あのホスト崩れが華の収入目当てに産休も育休も取らせずに働かせ続けてるんだろうな」
「許せない…」
千秋とすずが憤り気味に話す。
受信機から聞こえる2人の喘ぎ声を聴きながら僕は考える。
「男の素性を洗ってくれ、どこから金を借りてるかもな・・・それと母親の方の行動と資産関係も調べてくれ」
「ええ、任せて」
そう僕は言い受信機の電源を切ったのだ。
そこから数日後・・・
佐藤華と由香里の母娘、ホスト崩れの男、優吾の情報がかなり集まってきた。
「佐藤家の実家は既に売り払われていて、殆どの資産も食い潰されたみたいね」
千秋が溜息混じりに言う。
「華には高額な保険がかけられてるみたい・・・ちょっとどころでなく危ないわね」
つまり働かせ倒して死んでもいいぐらいの扱いなんだろう。
思った以上にかなりマズい。
「ただ優吾とやらの情報も得れたよ・・・アイツ色んな女に手を出してるみたいだけど・・・ヤバい所の女も手を出してるみたい」
すずがそう言う。
それはいい情報だ。
ただ気をつけないと、華や由香里も身内としてそのヤバい連中に目をつけられ兼ねない。
それを使うとしても先に2人を引き離さないといけない。