ヒメゴト-神童性日記。 4
一通りの説明を受け、帰ろうとしたときのこと。
出口に立っていたせんせぇを見て、心がキュン、となったのだ。
「どうかな、頑張れそう?」
「え…あ、あぁ、はいっ」
不意に声をかけられ、ドキマギして、そう返事するだけで精一杯だった。
…本気で男の人に恋したのは、これが初めてかもしれない。
初めてせんせぇに会ってから、いつか『そういう』関係になりたいと心から願っていた。
座席を黒板の真ん前にしたり、積極的に話に耳を傾ける。
「可憐は成績もいいし、俺が教えることなんて何もないだろ」
統一試験の成績を見て、そう言われたことがある。
「いえ、もっともっと頑張りたいんです」
せんせぇに振り向いてもらいたい一心でね。
でも、実際にはなかなかその思いが届かなくて。
それだったら、私からアクションを…それは正直したくなかったのだけど。
少しずつ、せんせぇとの距離を縮めたい。
私にとってのチャンスでもあり、楽しみだったのは、授業後の事務室でのせんせぇとのお茶を飲みながらの会話。
せんせぇが塾の戸締りの担当であるときのみで、だいたい月に2,3度くらい…
「可憐ほどマジメな子はいないぞ」
「そうですか?」
「そもそも、成績が優秀なのに塾に通う理由はあるのか?」
…核心を突かれた気がした。
それなら、私も包み隠さず、本心を伝えたい。
「友達が、イケメンで性格もいい先生がいるといっていて、気になったので通うことにしました」
「…誰のことだ?」
「せんせぇのことですよ?」
「俺が?俺、そんなにイケメンかぁ?」
せんせぇは戸惑ったように腕組みしながら私から視線を逸らそうとする。
私はそれでもじーっとせんせぇだけを見つめ続ける。
「本当のイケメンさんは、自分をイケメンだとは思っていないんですよ」
「上手いこと言うなぁ、お前」
照れ臭く笑うところがまた、年上なのにかわいいというか。
…ますます好きになってしまう。
「何か飲むか…紅茶がいいか?コーヒーがいいか?」
「じゃあ、紅茶で」
そう言ってそそくさとお湯を沸かし、自分の分と私の分、2つの紅茶を用意してくれるせんせぇ。
「ありがとうございます」
あったかい。部屋の中は暖房が効いているけど、さらにあったかく感じる。
…もちろん、いきなり誘惑することはしない。
せんせぇと何気ない会話をして、少しずつ距離を縮めて、その延長線上であんなことやこんなことができたらいいなと思っていた。
…それを友人のあの男にもしてほしかったのは言うまでもない。
彼の要求は何もかもすっ飛ばしていて、性急過ぎた。