ヒメゴト。 27
『宇野くんか…彼がどうかしたのか?』
「ええ…実は、その、ちょっと不味いことになったといいますか…」
『まさか、彼が何かしたのか?』
「まだ彼のせいかはわかりません…でも、ウチの生徒が一人、行方不明に…」
『な、なんだって!?僕も今すぐそっちにいく必要が…』
「わざわざ無理せず…俺が何とかします!ヤツの住所を…」
『わかった、頼むよ…』
責任者・山口さんにやつの住所を教えてもらい、俺は自分の車に乗り込む。
「私も行きます!」
助手席に、可憐のお母さんも乗り込んできた。
「お母さん、俺一人で…」
「可憐は私の娘です…私が行かなければ…」
泣き出しそうな表情だが、その言葉は重く響いた。
お母さんにも、捨てられないプライドや決意があるのだろう…俺は感じた。
「じゃあ、出来る限り飛ばしますんで、お母さん」
「はい!…あと、私、深沢里菜といいますんで…里菜、でいいですよ」
お母さん…もとい、里菜さんとともにヤツの自宅へ。
車で出来る限り急いで20分ほど。
山口さんに教えてもらった、奴の部屋のあるアパート。
「ここの2階の、202号室だそうです」
「わかりました…私に行かせてください」
「ちょっ、それこそ大丈夫じゃないですって!」
「ふふ、任せてくださいよ」
俺が全力で止めても不敵に微笑む里菜さん。
この余裕はどこから出てくるんだ?
里菜さんはヤツの部屋のドアの前に立ち、インターホンを押す。
「あ、あの…」
「夜分遅くすみません」
ヤツはドアを開けない。そりゃ警戒するだろう。
「あの〜……で、…」
見た目もさることながら声も可愛らしい里菜さん。
年頃の娘がいる母親にはまず見えないね。
カチャ…
ヤツは気を許したのか、鍵が外れ扉が開く音がした。
「…うぎゃあっ!?」
「娘をどこに隠したのかしら?ねぇ、豚さんったら」
里菜さんは華奢な身体からは想像できない力でドアノブを引っ張り、宇野の身体を足蹴りした。
「ねーぇ、逃げ切れるとでも思ってた?」
…怖ぇえ、里菜さん人格変わっちゃったよ。
仰向けになった宇野の腹を足で踏みつける里菜さん。
何この人…相当なドSだ。
「今です、湯川さん、中に入ってください」
「は、はい…」
本来なら俺が宇野を蹴飛ばす役目で、里菜さんにいいところ見せたかったけど、これじゃなぁ。
宇野は宇野で俺の名前聞いて一瞬ハッとしたけど、また里菜さんに強く踏んづけられて悶絶してる。
俺はそれを尻目に、部屋に押し入り可憐の居場所を探す。