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世界の中心で平和を叫ぶ。第3部
官能リレー小説 - SF

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世界の中心で平和を叫ぶ。第3部 21


いるんだ。そう思った瞬間、胸元あたりに突然刃物で切られたような1本の線が刻まれていることに気がついた。
額からもいつ切られたのか、一筋の赤い滴が顔を伝って流れていく。
その意味するところに、ルシフェルは驚きを隠せない。
翔影はあの一瞬、アドバンスド・ヒーローである彼女でも見切れないほどの神速の斬撃を繰り出したのだ。
明らかに格の違う・・・いや、逸脱した強さにルシフェルは確信した。
やはりあの男は只者ではない、と―――。
一方、ルシフェルの元から去った翔影は、人形のような無表情を保ったまま、突然横の壁を殴りつけた。
壁にクモの巣状の打撃痕がつけられ、拳から真っ赤な血があふれ出す。
それはまるで全てを押し殺そうとしている翔影の本心を語っているようだ。
彼は自身の未熟を心底恥じ入りながら、一言つぶやく。

「・・・あの女、危険だな・・・」

その何気ない一言は、まるでルシフェルへの死刑宣告のように深く静かに響くのだった。

――――

パシャ、パシャ、パシャ・・・。

それから数日後。
啓太は雨の中、コンビニ袋とカサを片手に1人住宅街を歩いていた。
今日はオフの日。アパレント・アトムの首領からただの一般人に戻れる日だ。
いろいろなことを経て、少しは地下組織の長の自覚が出てきた啓太。
しかしそんな彼と言えど、毎日仕事と勉強をしているわけではない。
時にはこうやってリフレッシュし、英気を養っているのである。

「せっかくのオフですのに、雨なんて残念でしたね」

雨の中、一緒に隣を歩くのはオート・バルキリー。
栄えある本日の警護役に当たった、本日のラッキーガールは、残念そうな様子で啓太に話しかけた。
すると啓太は苦笑混じりにこう答えた。

「ん?いやまぁ、そうだけど・・・。
 こうして普通の生活を送れるだけでも、幸せってモンさね」
「そういう・・・モノなのですか?私にはよくわかりません」

せっかくの休日がだめになったのに、これはこれでいいという啓太の気持ちが理解できず、納得いかなそうに小首をかしげた。
きっと彼女の頭の中では、「せっかくのオフが雨で台無しになったのだから、そのぶん私ががんばらなければ」なんてことを考えているのだろう。
啓太は一般人として振舞える、安らかなひと時を堪能しているというのに。
人間欲望だけで動いていると考えているあたり、彼女たち怪人もまだまだ勉強不足だ。

「・・・ん」

そんなとき、啓太が何かを見つけて足を止めた。

「いかがなさいましたか?」
「いや・・・そこのゴミ捨て場を見て懐かしい事を思い出して、さ」

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