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世界の中心で平和を叫ぶ。第3部
官能リレー小説 - SF

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世界の中心で平和を叫ぶ。第3部 120

世間からは凶悪犯罪の代名詞とされ、悪の組織から使い捨ての道具扱いをされる怪人たちであったが、その動きは妙にぎこちない。
何と言うか、どこか人間臭さを感じさせる動きである。
それはすべて、啓太が彼女たち怪人を人間として扱い続けてきた教育のたまものだ。
どうしても怪人たちを道具として割り切れない啓太によって、道具でしかなかった彼女たちの心にほんの少し。
実に小さなものではあったが、居心地の良さや幸福感などの感情が芽生えていたのだ。
それゆえ自分にも何かできることはないか、と警備部に食いつく非戦闘員の姿も見える。
その中には回復要因として戦場に向かおうとする元スイーツホルスタイン、糸田鈴の姿もあった。

「お母さん、待って!私も行かせて!今の私なら少しはみんなの役に立てるわ!」
「・・・ダメよ、空。あなたはここに残るの。いくらあなたが防御の力を持ったところで、しょせん素人の付け焼刃。
 本職の仲間たちに迷惑をかけてしまうわ」
「だったら!私も回復要因としてついていくわ!それならみんなの役に立てるでしょう!?」

みんなの役に立とうと必死に食い下がる空に、鈴は悲しげに首を横に振った。

「ダメよ。あなたはまだ幼い。あなたが死んだらきっと啓太様は悲しまれる。
 何より、私の娘をそんな危ないところになんて連れて行くことなんてできないわ」
「私なら大丈夫だよ!私も啓太様のお役に立ちたい!」

啓太のため、身を粉にしようとする娘、空の気持ちは母としてうれしいことこの上ない。
しかし戦闘要員とそうでないものの隔たりをよく知っている鈴は、それを認めることができなかった。
だから鈴は娘の暴走を抑えるため・・・鈴の頬をたたくでも、強く言うでもなく。
無言で優しく娘を抱きしめた。これが今生の別れになるかもしれないと、ありったけの愛情をこめて。

――――

その頃。地上では戦いが激化していた。
蘇ったネットワーク・フェアリーは黒い全身タイツのようなスーツに覆われ、背中から翼のように生えた可動式プラズマ砲を乱射する。
もちろんアパレント・アトムの怪人たちも反撃してはいるのだが。
連中が装備しているシールドが邪魔で、なかなか思うように攻撃が当てられない。
こういう相手には接近戦に持ち込むことが重要なのだが、周囲の被害も顧みず、プラズマ砲をバカスカ撃たれては近づくこともままならない。

「くそっ!アイツら、人間たちのことも考えずに撃ってきやがって!
 『無関係の人間を巻き込んではならない』って啓太様の教えを忘れやがったのか!?」
「忘れるも何も、啓太様を裏切った時点ですでに正気じゃないんだ!
 バカ言ってないで応戦しろッ!」
「応戦しろったって防戦一方じゃねえか!このままじゃジリ貧でやられちまう!
 本部からは何も連絡はないのかっ!?」
「連絡はなくても私たちを見殺しにするわけないでしょ!私たちは私たちでできることを精いっぱいするのよ!!」

弱音を吐くもの、仲間を信じるもの、死ぬその瞬間まで戦うもの。
アパレント・アトムの怪人たちはお互いを励まし合い、必死に戦い続けていた。
戦う力のあるものは前線に立ち。戦闘能力そのものがないものは、後方支援に徹する。
このような場合、使い捨てである怪人たちは玉砕覚悟の特攻をするか、敵を引き付けるだけひきつけて自分たちごと基地を吹っ飛ばすのが常道だ。
だが啓太の意向でそれを許されてない彼らは生きるために抵抗を続ける。
いきなりドンパチを始めたと周囲の人間たちから恐れられ、誤解されても、無関係な人間たちを傷つけずに生き残る道を模索する。
すべては乱宮啓太のためだけに。
しかし本来ありえないはずの行動が、変身・強化されたネットワーク・フェアリーを操るウリエルに疑問を持たせるだけの時間を与えた。

(何だ?コイツら・・・あからさまに時間稼ぎをしてるのはわかるんだけど・・・。
 この中途半端さはナンダ?反撃はしてくるけど攻撃力は中途半端。
 あの手この手を使ってるように見えて最後の一線は超えてこない。
 ホントにこれがこの町を牛耳ってる連中なの?)

別の場所で高みの見物を決めているウリエルが疑問に思うのも無理はない。
それは悪の組織らしからぬ、人間レベルの戦い方であったからだ。
普通、悪の組織なら正体が周囲にバレたら即座に撤退するか、開き直って大暴れする。
特に後者の場合、周囲の迷惑を考えないような強力にして凶悪な攻撃―――たとえば自爆など―――をやるものなのだ。

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