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未来宇宙史
官能リレー小説 - SF

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未来宇宙史 8

 この艦は戦闘能力が皆無に等しい代わりに、居住設備が充実している。
 その一つが、今カイルが向かっている貯蔵庫である。
 温度・湿度は自由自在、スペースも最大4つまで、操作盤を使ってパーティション管理が可能である。……現段階では四等分した一つを冷蔵設備として使っているだけだが。
 閑話休題。貯蔵庫に向かったカイルがおもむろに取り出してきたものは、子どもが好きそうなオレンジジュースとただの水、そして炭酸水である。
 なんだかんだで重宝するのが水なので、その分貯蔵量も、文字通り水増ししていた、ということの現れでもある。
 コップもちゃっかり三人分をブリッジ会議用テーブルに置き、さながら開会を待つ議事長のごとく鎮座してみるカイル。
 ほどなくして、先刻の喧騒が辺りに響き始める。

「ねぇー! 着せるものないんだけど!」
 聞きなれた扉の開く音とともに、ちょっと怒ったような声を出すエナ。
 OK,OK,想定内。鎮座スタイルを中断して操縦捍からのマイトウールセーター手渡しなう。リズムとしては大体そんな感じでエナに服を手渡すカイル。
「ほらよ」
 なんて、さも『俺様やってやったぜ☆』感を醸し出しながらの動作だったが、相対するエナは大層複雑な表情だったそうな。
 さすがのカイルも、貰ったものを本人の目の前で貸し出すのは気が引けたからこその異常動作だ。
「ん、ありがと」
 とは言えちっこいサイズに合う服がないことはエナも承知しているはず。瞬時に状況を判断して咎めることはしなかった。

 エナがマイトウールセーターを被せると、ほどよく縮んだセーターが、思いの外ょぅι゛ょにフィットしていた。
「ごわごわしてる! ごわごわしてる!」
 もはや定番となった台詞を口にしながらも、嬉しそうに微笑む発展途女子。
 先のエナの格好が水着同然であったように、別に全裸でも寒くない程度に温度管理されているが、そこはそれ。体裁的な意味でも衣服を着用させようというカイルの働きかけが実った瞬間でもあった。
 相も変わらずエナは水着を着ていたが。
 それはさておき、カイルが会議テーブルの着席を促すと、エナが円柱的体型の女性を議長席の対面へと誘うと、議長席の左隣を陣取った。
 気圧された感のあるカイルは、しぶしぶと言った様子で議長席に座る。
「そうだなぁ……まずは名前を聞いておこうかな?」
 呼び名が無いというのは何かと不便だ。カイルの質問は至極妥当であると言えよう。
「リラです」
 澱みなく答えるところを見ると、どうやら嘘はついてなさそうだ。少なくとも危害を加えようとしているそぶりはない。そう判断したカイルは、元々大してしてはいなかったが、警戒を解くことにした。
「そうか。俺はカイル。こっちがエナだ」
「こう言うのも何か変だけど、よろしくね」
「まず、この船に居た理由から聞いてもいいかな? 後ろめたいことがあっても正直に話してほしい。理由如何では咎めたりしないから」
 矢継ぎ早だが優しい口調でカイルが続ける。
「気づいたら知らないところに居て、大人の人達が追いかけてくるから、怖くて逃げ込んだのがこの船なんです」
「それがたまたま出航直前だったとか?」
 名推理でしょう? と言わんばかりの視線を投げ掛けながら、エナが問う。
「さっきのトコに隠れてたら、いつの間にか寝ちゃってて……」
 エナが椅子から転げ落ちそうになる程のボケっぷりに、カイルも頭を抱える。
「まぁとりあえず、悪意が無いことは分かった。俺たちは今、ガンダルヴァという惑星に向かっているところだが、リラはどうする? 地球に送り届けたいのはやまやまだが、結構進んでしまったし、ここで引き返すよりも、ガンダルヴァで高速船でも借りた方が早そうだ」
「ち…きゅ、う?」
 初めて聞くような顔をするリラ。
「リラの故郷がある惑星の名前だよ。」
「それとも、地球以外の惑星から来た、とか?」
 悪戯っぽい笑みを浮かべて言いつつ、オレンジジュースでいい? と問いかけ、いつの間にか注いでいたコップを差し出すエナ。
「あ、はい。ありがとうございます。うーん……たぶん、ちきゅうってトコじゃないと思います」
 名推理顔をしておけばよかったと心底後悔するエナだった。

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