世界の中心で平和を叫ぶ。第2部 98
ピクッ・・・。
その言葉に、ぎこちないながらも笑おうとする啓太から笑顔が消えた。
彼の心に最初に浮かんだのは怒り。
望みもしないのに平然と自分の命を投げ出すその無神経さが、啓太の怒りをかき立てる。
しかしそれももうしばらくの辛抱だ。
他の組織にナメられないだけの実績さえあれば、もう彼女らをこんなツラい目に遭わせずに済むのだ。
啓太はそう思い直すと、再び笑顔に戻った。
その態度が何か気にかかったのだろう。
いつもと違う対応に、夢は率直な疑問を投げかけた。
「啓太様。何か、あったのですか?
普段のあなた様ならすでにお怒りになってもおかしくないはず・・・」
「・・・それをわかってやるってんだから、オマエもタチが悪いな」
「茶化さないでください。何かあったのですか?」
「・・・ん。大したことじゃない。
オレたちが平和に暮らせるようにするために、この町から敵対組織を追い出すことにしたんだ」
「―――!?ど、どういうことです?
普段の啓太様ならそのようなこと、断じて口になさるはずが――!」
「確かにオレも平和にすごしたいんだけど、な。
少なくともそうするためには多少の力が必要なんだってわかったから」
その一言で、なぜ啓太が急に悪の総統らしいことをしようなんて思ったのか、合点がいった。
クロックだ。クロックが自分の主人にいらぬことを吹き込んだのだ。
夢としては啓太が自主的にそれを望まない限り、ノータッチを決め込んでいたのだが。
まさか自分が倒れていた間に、主人の意識改革を図るとは。
夢は己の弱さとスキを見せてしまった不手際に、自分自身を殺してやりたい気分になった。
(クロックめ・・・わかっているのか?
意図的な意識改革や急激なマインドコントロールが、どんな結果をもたらすことになるのかを・・・!)
本当ならここで今すぐ主人の啓太を諌めたいところだが、それも正論である以上、啓太は意見を曲げないだろう。
何より、啓太は組織の怪人たちが人間と同じように暮らせる世界を求めているのだから。
残る手段はただ1つ。
啓太が目的を果たすか、くじけるかするまでに被害を食い止め、啓太の心へのダメージを最小限にすることだけだ。
「そう・・・ですか。ついに組織の長として進む道を決められましたか」
「んな大したモンじゃねえよ。いつも言ってるだろ?
オレはただ、みんなと一緒に平穏無事にすごしたいだけなんだよ」
「そう、でしたね。失礼しました」
そう言ってカプセルの中、苦笑を浮かべる夢。
しかしその心中では2度と啓太を苦しませないこと、傷つけないことを固く心に誓っていた。
それは彼女の、これから始まるであろう、茨の道を歩く啓太へできる精一杯。