世界の中心で平和を叫ぶ。第2部 97
医療部部長チェス・ボード。イブと同じ群体型の怪人で、頭脳である本体が15体の分身を手足のように操る怪人である。
今、彼女は15の分身と本体の頭脳をフル稼動させて夢の治療に当たっていた。
「ではすぐに復帰できるのか?」
「ああ。ブラックボックスが多すぎて詳細は不明だが、わかっているデータを見た限りは大丈夫だ。
むしろ問題は急激に成長した肉体への負荷だな。
もう元に戻っているが大事を取って明日まで休ませる、
いいな?」
「かまわん。ただもうすぐここに啓太様が見舞いに見える。
それまでに夢と話ができるようにさせてやれ」
その言葉にチェスは露骨に怪訝そうな顔を浮かべる。
クロックはその反応が予測できただけに顔色1つ変えない。
「・・・冷静沈着、鉄面皮のオマエが気を利かせるとは。
天変地異の前触れか?」
「夢が倒れたおかげで啓太様が我々の主として、その一歩を踏み出し始めた。
これはそれに対するちょっとしたお礼だよ」
それを聞いてチェスは納得する。
あのヘタレのご主人様の教育の目処がようやく立ったのだ。
それを考えれば、あの氷のように冷たいクロックが夢に感謝の1つをしたくもなって当然だろう。
チェスがわかったと返事をすると、クロックはさっさと部屋を後にする。
医療用カプセルの中でプカプカ浮かぶ幸せ者のことなど、もう知らんと言わんばかりに。
啓太たちがやって来たのはそれから数分後のことだった。
「チェス。夢のお見舞いに来たんだけど、いいかな?」
「ん?ああ、かまわんよ。ただ一応ケガ人だからな。
あまり長い時間はダメだからな?」
チェスは何も知らなかったかのようにふるまいながら、そう答えた。
その時。カプセルの中がゴポリと泡立ち、夢がゆっくりとその目を開けた。
「・・・啓太、様?」
「夢?悪い、起こしちまったか?」
(そんなわけないだろう)
啓太の言葉にチェスは心の中で思わず突っ込む。
夢がタイミングよく起きたのは偶然だ。
チェスがクロックと別れた後、気を利かせて投与した気付け薬が効いてきただけのことなのに。
しかしそんなことなど露も知らない啓太たちは、そのまま間の抜けた会話を続ける。
「啓太様こそ・・・大丈夫でしたか?
その・・・私の力及ばぬばかりにおケガをさせてしまいまして・・・」
「だ、大丈夫だって!オレは・・・ほら、この通りピンピンしてるって!
それよりオマエのほうこそ大丈夫なのか?
こんな物々しいカプセルなんぞに入れられて、さ」
「私のケガなど・・・。私1人の命より、啓太様の命のほうが何倍も大事です」