世界の中心で平和を叫ぶ。第2部 94
そのため、『畑』は怪人たちが作業に取り組みやすいように自然に近い形で作られている。
『畑』の区画一面がガーデニングできるようになっていると思えばわかりやすいだろうか?
そこではハチミツ作りに勤しむミツバチ怪人や絹糸の作りに勤しむカイコの怪人とクモの怪人などが仕事に精を出していた。
糸田親子が探しているのは『花束』を作るのに必要な花の怪人。
彼女らは『畑』の中央に程近いエリアにいた。
「んッ・・・ふちゅっ・・・あッ♪」
「ふむ・・・ン・・・ぷあッ!」
そこにいるのは頭に大輪の花を咲かせた怪人や無数の花飾りを頭につけた怪人、バラの咲いているツルをまとわせた怪人など、さまざまな花の怪人がそろっていた。
そして彼女たちの多くは昆虫系と思われる羽根持ちの怪人たちと濃厚なキスを交わしていた。
「・・・ん、おいし♪今日もいい蜜をありがとね、咲」
「喜んでもらえてうれしいわ、このか。
またおいしい蜜を作っておくからまた来てね」
「うんっ!それじゃあまたねー!」
「お仕事ご苦労様、咲」
ちょうど仕事が終わったのを見計らって鈴が花の怪人の1人に声をかける。
彼女の名前は水島咲。花の怪人のたまり場、通称『花壇』のまとめ役みたいな存在だ。
先ほどのディープキスもレズっていたわけではなく、キスを通じて作った蜜を渡していたのである。
「あら?鈴様が空ちゃんと一緒にここに来るなんてめずらしいわね。
どうかしたの?」
「咲・・・意地悪な呼び方しないで、いつもどおりに呼んでもらえないかしら?」
「ああ、そうだったわね」
クスクス笑いながら謝罪する咲。
どうやら彼女は鈴たちと面識があるようだ。
似た職場で働いていたなら、さほどおかしくないことだが。
「それで何の用?」
「啓太様が夢さまのお見舞い用の花束をご所望なの。
悪いけどあなたたちから何本か花をもらえないかしら?」
「ふふふ・・・。あなたも意地悪なことを言うのね、鈴?
私たちを救ってくれた大恩人お2人のためとあらば、断れるわけないでしょ?」
咲はそう言うと、おもむろに頭の花飾りに手を伸ばす。
すると花飾りからにょきにょきと茎が伸び出し・・・。
髪飾りはあっという間に1本の花へと変化した。
咲は頭から生えた花を手折ると、鈴に差し出す。
「はい。他の娘たちにも事情は説明しておくから好きなだけ持っていって。
啓太様と夢さまによろしく言っておいてね?」
「大丈夫です、咲さん。たとえ私たちが伝えなくても、お2人は私たちのお気持ちを汲んでくださいますっ」
「ふふふ・・・っ、そうね、空ちゃんの言うとおりね・・・?」
せわしなく働く『畑』の住人たちの間で優しい笑顔と笑い声があふれる。
そこには啓太が求めていた穏やかで日常的な時間が緩やかに流れていった。