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世界の中心で平和を叫ぶ。第2部
官能リレー小説 - SF

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世界の中心で平和を叫ぶ。第2部 84

敵にするのは悪人だけ。一般人には手を出さない。
力を振るうのは町の平穏、ひいては自分たちの平和を守るため。
そして少なくとも鈴と空はそれに賛成している。
啓太の中で天秤がわずかに傾き、妥協し始める。
しかし啓太は気づかない。
妥協とは決意を破壊するものだということを。
そして夢のいない中、啓太はとうとう結論を出した。
「・・・本当に、そうすればこんなことは起こらないんだな?」
「もちろんでございます。
 少なくとも露骨にあなた様を刺激する愚か者は出なくなるでしょう」

このときのクロックは、どんな顔をしていたと言えばいいのだろう。
事が思い通りに行ったことへの満足?
世界征服への第1歩を踏んでくれたことへの歓喜?
それともそれを感じさせない能面のような顔?
その全てが当てはまり、そうでないような不可思議な表情。
しかし啓太は気づかない。
目の前の事件に精一杯で、クロックの顔も自分の決断の導く未来も何もかも。

「・・・わかった。おまえの言うとおりに、する」
「ありがとうございます。
 それでは啓太様のお望みをかなえるため、私はこれにて失礼します。
 啓太様も明日から忙しくなりますゆえ、夢への見舞いなど、やり残しのないようお願いいたします」

クロックはそれだけ言うと、深々と頭を下げてその場を立ち去った。
運命の石は投げ入れられた。
後は重力に従い、加速しながら転がるだけだ。
石の止まる先は生か、死か。
だがそれに気づかない啓太は、クロックの言葉を素直に受け止めることしかできなかった。

「夢へのお見舞い、か」

つぶやきながら、啓太は今までのことを思い出す。
そう言えば啓太はここの首領になってから、ずっと夢やクロックたちに頼りっぱなしだった。
なのに彼女たちはそれに何一つ文句を言わず、ひたすら自分に尽くしてきてくれた。
せめて倒れたときくらい、看病するのがせめてものお礼なのかもしれない。
そう思った啓太は事の成り行きを見守っていた鈴と空に声をかけた。

「鈴。空。夢のお見舞いをしたい。
 ちょっと手伝ってくれないか?」

無邪気な笑顔。
それは何も知らない啓太だからこそなせる笑顔である。
そして同じように先を読めない鈴と空も、啓太の優しさにやわらかな笑顔をほころばせるのであった。

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