世界の中心で平和を叫ぶ。第2部 62
正直言って、メチャクチャ怖い。しかしやらねばならない。
こうしている間にも、夢たちがどんな危険にさらされているかわからないのだから。
啓太はなけなしの勇気を振り絞って決死の演技を始めた。
「・・・刀。もう一度言うぞ?・・・『どけ』!」
「・・・ッ!?」
突然出てきた威圧感に、刀は内心戸惑う。
主人からの命令に刀は思わず従いそうになるが、それでも啓太の身を守るためだと言い聞かせて命令を拒否する。
しかし矛盾した2つの事象に、怪人としての本能が悲鳴を上げてきしみだす。
「な・・・んと言われようと、ここは譲れません。
啓太様の身の安全が最優先事項です」
「・・・そうかい。だったら力ずくでも通らせてもらうまでだ」
啓太はそう言うと、懐から懐中電灯くらいの棒状の何かを取り出した。
それを見た瞬間、刀だけでなく空や彩夏までもが顔色を変えた。
唯一啓太の出したものの正体を知らない薙が恐る恐る空たちに尋ねる。
「そ・・・空殿?あれは何でござるか?」
「あ、アレは夢さまたちが開発部に命じて作った武器『レイサーベル』です。
で、でもアレは威力が強すぎて、めったなことでは使うなと注意されてたはず、なんですけど・・・!」
もちろん啓太もコレを抜こうだなんて考えていない。
初めて使ったときでさえ、とんでもない事態になったのだ。
できることなら一生使いたくない代物だった。
だがハッタリとして使うのなら。
啓太はそう判断してレイサーベルにカートリッジを挿入する。
これで後はスイッチ1つで死と破壊をバラ撒く刃が飛び出る。
「2回目だ、刀。そこを・・・どけ」
「・・・ッ、」
その言葉に、刀の持つ剣の切っ先がカタカタとかすかに震えだす。
啓太を怒らせたかもしれないという恐怖。
命令に従わなければならないという怪人としての本能。
啓太を守るために、ここを動いてはいけないという使命感。
3つの思いがせめぎあい、刀の心を大きく揺らがせる。
その結果がこのかすかな震えであった。
並みの怪人なら思考の無限ループにハマって気を失ってしまうところだ。
しかし個人的にも啓太が大好きな刀は、かろうじてその場に留まることができた。
「な・・・なりませんっ。けっ、啓太様こそそれを捨ててください・・・!」
「却下だ。コレは夢たちを守るための大切な武器だ。
それより刀。これで2度目だぞ?いいかげんそこをどいたらどうだ?」
「ご冗談・・・を。啓太様こそあきらめてくださいませ」
2人の間で恐怖と勇気の相反する2つのものがせめぎあう。
そこでさらに相手を追い詰めたのは、啓太のほうだった。