世界の中心で平和を叫ぶ。第2部 6
この小さな怪人は、3ヵ月ほど前から徒党を組んで付近のゴミ収集所やレストラン、食料品店を荒らしていた正真正銘の小物だ。
何か重大な秘密があるなら、とうにどこかの悪の組織が動いてもいいものだが、そんな話は聞いていない。
しかしそれを、正義の味方の中でもかなりの実力者である自分の攻撃を防げるほどの怪人のいる組織が、なぜ追いかけなければならない?
これほどの実力なら銀行強盗なり、もっと大きな悪事に動いてもいいはず・・・?
彼の知る悪の組織とは違う動きに、どうしても納得のできない翔影。
そしてその逡巡が、グラップルの命を救うきっかけとなった。
「『ブレイジング・バースト』!!」
「!!」
謎のかけ声とともに目の前の炎が雪崩のように翔影に向けて降り注ぐ。
翔影はとっさに身を引いてかわすが、先ほどのダメージが残っているグラップルはなす術なく炎に飲み込まれた。
貴重な情報源を消され、舌打ちした翔影が目を向けた先にいたのは・・・。
「・・・ッ!?おまえは行方不明の・・・!!」
そこには赤い槍を地面に突き刺したミニスカートのメイドが1人立っていた。
その少女の顔を見た瞬間、翔影の顔に明らかな動揺が浮かぶ。
そのスキを突いて、別のメイドが日本刀を片手に彼の背後へと迫っていた。
「!!」
しかし敵もさるもの。
新たな敵の存在に気づいた翔影は、ナイフですばやく必殺の一撃を防御する。
不意打ちに失敗した日本刀メイドは、すぐさま反対側から鋭い蹴りを放つ。
その蹴りの軌道を見切った瞬間、翔影は日本刀メイドが何を狙っているのかを理解した。
「しまっ・・・」
ガッ!!
日本刀メイドの蹴りは見事タマゴ怪人をつかむ翔影の右手に命中して、怪人は夜空へと舞い上がる。
そして上空にいるのは、緑色に輝く杖を持った3人目のメイド――!
彼女はタイミングよくタマゴを受け止めるとそのまま槍メイドの下に着地した。
そこには炎に飲み込まれ、丸焼けになったはずのグラップルが大したヤケドもなく介抱されていた。
しかし翔影にとって重要なのはタマゴ怪人の奪取でもなければ、グラップルが炎に飲まれてなおも生きていることではない。
「何のマネです・・・私のジャマをし、あまつさえその怪人を助けるとは!
自分たちが何をしているのか、わかっているのですか・・・エレメンタル・ガーディアンっ!?」
彼にとって重要なのは、半年前から行方不明になっていたはずの、元同僚たちが敵にまわっているという事実1つだけだった。