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世界の中心で平和を叫ぶ。第2部
官能リレー小説 - SF

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世界の中心で平和を叫ぶ。第2部 290

だがここで治療しようにも、薬も設備も何もない。
啓太は死――――。

「――――ッ!?」

その言葉を思い出した瞬間、夢は自らの心臓が大きく跳ね上がった。
あまりの動揺に、レックスの攻撃を防ぎ続ける防御にも大きな乱れが生じるほどに。
髪の色が変わってから、ほとんど心動かされることのなかった夢が、大きく呼吸を乱し、全身から嫌な汗をかいている。

(―――ッ、そ・・・うだ。私はもう死なせてはならない。
 私はもう、大事な人を失いたくないんだ―――!)

しかしそのためにはいったいどうする?
そこで夢はたった1つ、不可能を可能にする方法に気がついた。
しかしそれを実行することを、啓太は許してくれるだろうか?
今の傷ついた身体で、うまく行くかどうかの保障もないのに―――。
夢はわずかに逡巡したが、すぐにその方法を実行に移した。
何もしなければ啓太は死ぬのだ。
啓太が助かるなら、自分はどうなってもかまわない。
夢は成功を祈りながら、啓太に両手を掲げた。
夢の手から放たれた白く細い、無数の糸が啓太の身体に絡みついていく。
糸は啓太の身体をあっという間に包み込み、繭のようなものを形成していく。
そして夢はそのまま糸を瓦礫に張り巡らせると、繭をハンモックやゆりかごのように宙へと浮かせた。

「こ、これは・・・?」
「・・・死なないで。あなたは必ず、私が・・・守る」

ケイロンがあっけにとられる中、夢は愛しい子供に別れを告げるように繭に身体を預けてそうつぶやいた。
そして夢が繭から離れ、振り返ったとき、雰囲気が一変していた。
聖母のごとき慈愛に満ちた表情から、殺意みなぎる狂戦士のそれへと。

「・・・ッ!?な、何だ!?」

それと同時にレックスの火の玉を防いでいた白い布が威勢に姿を消した。
まるで自分たちの役目は終わったと言わんばかりに。

パシュッ・・・!

夢はゆっくりとレックスのに向かって歩きながら、右手と左足の装甲をパージ(分離)する。
それは役に立たない装甲を切り捨てたのではない。
本来の姿に戻るのに邪魔だったから捨てたのだ。
今までの彼女の姿は、記憶がないゆえのいびつな姿であった。
夢には装甲など必要ない。
かつて夢が啓太に右手と左足だけしか変身しなかったのは、故障していたからではない。
元々ないものを形成しようとしたから、あれだけしかできなかったのだ。
なぜなら彼女は怪人の女王。他の怪人とは違う、『特別製』なのだから。

「は、ははっ・・・。そいつはもう、使わないのかい?」
「貴様・・・楽に死ねると思うなよ?」

それが戦闘集団『ザウルスペクター』と新組織『アパレント・アトム』との、最終決戦の合図となった。

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