世界の中心で平和を叫ぶ。第2部 216
いったいルシフェルの発言の何が彼をここまで怒らせたのであろうか?
自分を旧式と侮られたこと?
手塩にかけた部下をあっさりと倒されたこと?
それともそれ以外の何か?
いつにない怒気を放つ鬼瓦と、それをそよ風のごとく受け流すルシフェルからは何も読み取ることができない。
一触即発。そんな状況の中、最初に動いたのはルシフェルであった。
「くっ・・・くくっ!いや、これは大変に失礼した!
この騒ぎに巻き込まれたときは嫌気を覚えたものだが、あははっ、いや巻き込まれただけの甲斐があったというものだ!」
心底楽しそうに笑うルシフェル。
これだけ緊迫した空気の中、あれだけ笑えるのだから、よほどの胆力を持っているのか、それともどこか壊れているのか。
――あるいはその両方か。
「ではここはそちらの顔を立てて私はこの場を後にしよう。
いや、貴殿の逆鱗に触れるようなマネをして実に失礼した」
ひとしきり笑ったルシフェルは、満足そうな笑顔を浮かべて謝罪すると、その場を後にするべくゆっくりと歩き出す。
・・・が、急に歩みを止めると何かを思い出したかのように振り向きもせずにしゃべりだした。
「そうそう・・・。そちらは訓練にいそしんでいて何も知らないだろう?
お詫びの印に置き土産を残していこう」
「置き土産・・・?」
「この騒ぎの元凶はザウルスペクターと呼ばれる戦闘狂の恐竜怪人どもだ。
連中は今注目されているアパレント・アトムとかいう組織と戦りたがっている。
この騒ぎを止めたければ、この情報をうまく利用するんだな」
「・・・貴重な情報をどうも」
「そうそう、ここの怪人どもは血気盛んな連中ばかりでなく、ハイエナのような連中も多いようだからな。
そちらにも十分気をつけることだ。では・・・♪」
幸運を祈るとばかりに掲げた右手をひらひら振りながら、ルシフェルと名乗るプロトアドヴァンストヒーローは姿を消した。
鬼瓦警部は黙ってそれを見送ったが、姿が見えなくなってもその怒気は収まっていなかった。
「た、隊長・・・?」
「・・・行くぞ。我々も早くこの騒ぎを鎮圧しなければならん。
まずは騒ぎの元凶とそのエサとなるアパレント・アトムなる組織を探し出すぞ」
「「「りょ、了解っ!」」」
有無を言わさぬ迫力に、とっさに返事をする面々。
その中で、唯一返事をしなかった真一は心配そうに鬼瓦を見つめていた。
その表情に恐怖はない。なぜなら、今の鬼瓦は起こっているのではなく、変えられない過去を悔やみ、苦しんでいるように見えたから――。