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世界の中心で平和を叫ぶ。第2部
官能リレー小説 - SF

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世界の中心で平和を叫ぶ。第2部 179


「ど・・・して?どうして、私を、拒むの?」

その表情は、言葉以上に自分を拒絶する理由がわからないと語っていた。
こうしている今も人間を文字通り食い物にしているくせに。
その態度に啓太は一気に頭に血が上った。

「ふざけんな!誰がおまえなんかに食い物にされるって言うんだ!?
 今、おまえが食っている人たちも、おまえがだまして食っているんだろうっ!?」

啓太の怒号に対し、レゼントはきょとんとした。
小首をかしげて何事か考える。まるで何を言っているのかわからないような、そんな反応だ。
その態度に啓太のフラストレーションは否が応にも高まっていく。
だから啓太は気づいていなかった。いや、落ち着いていたとしても気づかなかっただろう。
壊れた怪人、野生化怪人。その恐ろしさ、おぞましさを。

「・・・食べる?私が?人間を?どうして、私がそんなことをするのですか?」
「なっ・・・!?だったら、おまえが今、木の実に入れて食っているものは何だって言うんだよッ!?」

言われてようやく自分に捕らえられた人間に目をやるレゼント。
しかしそれを見ても彼女は何の理解も示さない。
そこには確かに今も食われ続けている人間がいると言うのに。

「・・・これは、この世に絶望した人たちに夢を見せているだけですよ?
 私は人なんて食べたことは一度もありません」
「・・・っ!?じゃ、じゃあおまえの足元に散らばっている白骨死体は何なんだよ・・・!?」
「・・・死体?そんなものどこにあるんですか?
 みんな、ただ眠っているだけじゃないですか。
 ただ、目を覚まさないだけで・・・」

事ここに至って啓太はようやく気がついた。
この女は。レゼントは。人間を傷つけ殺しているという自覚がないのだ。
むしろ人間に夢を見せ、幸せにしているとさえ思っている。
そもそもまともな判断力があるかどうかさえ怪しい。
足元(根元?)の白骨死体を眠っている人間と思っているのだから。
そのとき啓太の脳裏にシャーマンの言葉が蘇る。
野生化怪人とは、どうしようもなく壊れてしまった怪人だと。
説明こそ受けていたが、啓太はこのとき初めてその言葉の意味を理解したような気持ちになった。
だがここである疑問が浮かぶ。彼女は自分が人を食べていないと思っている。
ではなぜ彼女は人間を捕まえる必要があるのだろう?
彼女の発言と行動の矛盾に、啓太は一筋の光明を見たような気持ちになった。
それは目の前の怪人が、人食いの悪党であることの証明への期待に他ならない。

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