世界の中心で平和を叫ぶ。第2部 171
啓太の望む戦いは死傷者ゼロのクリーンな戦い。
もちろんそんな都合のいい戦いなどあるわけないが、死傷者が少なければ組織の強化や啓太への奉仕も容易となってくる。
そうだ、落ち着け。何も悪いことばかりではないんだ。
クロックはそう自分に言い聞かせて自らを落ち着かせた。
(・・・まずはこちらに向けられた敵意のベクトルを変えなくてはならないな。
作戦もきれいごとだけではない、現実的なものも考えなくてはならない。
・・・こうなってくると、啓太様をあの訓練に出したのはちょうどいいタイミングだったな。
啓太様もそろそろ優しいだけでは生きていけないことを理解してもらわねば、な)
クロックはおびただしい数の書類を片付けながら、訓練に取り組んでいるであろう主人に思いをはせた。
――――
その一方。夢のほうはと言うと、これが意外にも落ち着いた様子であった。
「ふむ・・・作戦部に添削した資料を渡してもう一度練り直せと伝えろ。
こんなに穴だらけの作戦では状況に応じた柔軟な対応が取れない」
「はっ!かしこまりました!」
「ん?ああ、ちょっと待て。クロックのヤツめ、忙しさにかまけてここに残す警備部の数を甘くしているようだ。
私の権限でもう少し多く出撃させておけ」
書類の束を軽くたたいては、神速の動きで次々と資料を読んで仕事を片付けていく。
その流れるような事務の神技に、周囲の部下たちは思わずほう・・・とため息を漏らした。
(すごいわね、夢様。昨夜あんなことがあったのに毅然としていらして)
(夢様は啓太様の信頼に厚いからね〜。この程度のことでは啓太様への思いは揺らがないってことかしら?)
(愛ね!)
(愛よ!)
書類の束を机に運びながらこそこそと内緒話するお手伝いの怪人2人。
しかしそれが夢にバレないわけがなかった。
「そこの2人!この状況で内緒話とは余裕だな!?
ちょっとそこの書類2山ほど片付けておけ!」
「ええっ!そんなっ!?」
「あ、あれを私たち2人でですか!?」
「もちろんだ!あれが終わるまでは昼食抜きだからな」
「「ひええっ!?」」
部下の悲鳴を無視して仕事に没頭する夢。
しかし彼女とて啓太のことを心配していないわけではない。