世界の中心で平和を叫ぶ。第2部 158
ストラグラーニクスはとても小柄な少女だった。
外見だけなら小学生と見られてもおかしくないくらいに幼い。
しかし両手、両足から伸びた鋭い鎌状の爪が、彼女がまともな人種でないことを淡々と物語っていた。
真紅に染まった鎌状の爪をこれ見よがしに見せ付けながら、くすくすと笑っている。
そこのライオン顔を殺ったのは自分だと、遠回しに言っているのだ。
まるで主人にほめてもらいたがっている子犬のような純粋な表情が、この場にはとても場違いで。
介錯丸は言い知れない不気味さを少女から感じていた。
だが隣のスパイクファングも彼女に負けず劣らずの不気味さだった。
パーカーをまとい、両手をポケットに突っ込み、フードで顔を隠した謎の男(?)、スパイクファング。
一見まともに見えるが、それは上半身に限ってのこと。
ジーパンのひざから下は恐竜の足になっていて、尻からは太い尻尾がゆらゆらと動いている。
腰を境に上半身と下半身が別の生き物で違うことを考えているような、そんな印象を介錯丸は覚えた。
「・・・てめえらか?最近巷を騒がせてる自称『アパレント・アトムの怪人』って奴らは」
介錯丸は2人を警戒しながら挑発する。
何しろ2人はライオン顔の怪人を、介錯丸に気づかれずに殺害したのだ。
ここは逃げるより先にその謎を解いたほうがいい。
彼はそう判断していた。
しかし2人はそれに答えない。それどころ介錯丸を無視して、2人は急にジャンケンを始めた。
2回のあいこを経て、勝ったのはスパイクファング。
ストラグラーニクスはあからさまに不服そうな顔を浮かべた。
「・・・おい、さっきから何無視してやがる!?
さっさと質問に答え・・・ッ!?」
ガキィンッ!
みなまで言うより早く、瓦礫の山から飛び降りたスパイクファングの足が介錯丸の刀に噛み付いた。
すんでのところで攻撃を防いだのだ。
いきなりの不意打ちに頭に血が上った介錯丸は、愛刀を踏みつける無礼者を振りほどこうと、力任せに剣を振るう。
だがその一撃はスパイクファングを傷つけることなく、刀から振りほどくのが精一杯だった。
確かにこれほどの実力なら、2人でライオン顔の組織をつぶしたのもうなずける。
だが介錯丸は、Bクラスヒーローである自分を相手にタイマンをしようという、彼らのなめきった態度が気に食わない。
だから介錯丸は挑発と警告を兼ねて教えてやることにした。
「おいおい、オレをそこで死んでるライオン顔と一緒にされちゃ困るなぁ?
これでも一応正義の味方の看板しょってんだ、次にナメたマネしたら・・・斬り殺すぜ?」
「・・・?『なめる』?ストラグラーニクスたちはあなたを舐めるつもりはありません。
ストラグラーニクスたちはあなたと遊んでもらいたいだけです」
しかし初めて聞いた敵のセリフは、どう聞いてもふざけているとしか思えない発言だった。