世界の中心で平和を叫ぶ。第2部 144
だが自覚のない啓太に自分が犯人ですと言えるはずもなく。
また薙たちも自分たちがやったと答えることができなかった。
誰が犯人で誰がこの惨状を引き起こしたのか。
まさかこの場にいる全員がそうだとは知らず、容疑者たちは理解できぬ不安に恐怖を感じずにはいられなかった。
「―――千羽の傷はあなたたち全員でやったことですよ、啓太様」
「「「「「ッ!?」」」」」
その時背後の扉が開き、そこから何者かの声が響いた。
1人ではない。唯一の入り口からは何人もの怪人たちが飛び込んできて、血の海に沈んだ千羽の応急手当をする。
この見事なまでの準備の手際のよさ―――。
クロックか、夢か?一体どちらがやってきたのだろうか?
「正確には『啓太様と、啓太様のロボットとなった4人の仕業』ですがね」
「―――クロック?」
そこにはタキシードで身を包んだウサ耳姿の執事、クロックが悠然と立っていた。
彼女はその発言に驚く啓太たちを無視して手配したのであろう、治療班に応急処置をされる千羽は見る。
「ほう・・・!これはすごい。
初めてだったせいか、だいぶ手ひどくやられたようですね。
それとも千羽を本気で殺そうと思いましたか?」
「ど・・・どういうことだ、クロック!?
み、みんなで千羽を殺そうとしたって・・・!?」
「そ、そうだぜ!?お、オレたちは絶対に手出しなんか・・・!?」
クロックの発言に驚きと動揺を隠せない面々。
無我夢中で千羽を切りつけた啓太を始め、みなが口々に自分たちの無実を訴える。
しかし鈴たち4人はともかく、啓太のその右手は血でべっとりと濡れており、クロックの言葉がまったくのうそではないことは嫌でもわかった。
「・・・どうやら全員記憶にないようですね。いいでしょう。
私が啓太様に起こったことも含めて、一部始終を説明させていただきましょう」
クロックはタンカで運ばれていく千羽など見向きもせずに語りだす。
それは啓太の怪人の主人としての力と、この10日にわたる過酷な訓練を強いた理由のすべてであった。
「そもそもこの特訓は、啓太様にお強くなってもらうための訓練などではございません。
そんなものはせいぜいおまけ程度のお話。
この特訓の本当の目的は啓太様にわれわれの主人としての権限の行使に気づいてもらうためのもの」