世界の中心で平和を叫ぶ。第2部 106
「世間?常識?モラル?お笑いですね。
あなたはすでにそんな世界から一歩踏み出した場所に立っているのに」
「な、何だと・・・?」
「理由はどうあれ、私たちを毎日のように抱いている時点ですでに一般常識の世界から外れていると言っているのですよ、啓太様。
もしかして私たちとの縁を切れば、すぐにでもあちら側に戻れるとでも思ってました?」
「あ、当たり前だろ!?お、お前らを抱いていたくらいで、何でそんなことに・・・!」
啓太はクロックの言葉を振り切るように、全面的に否定する。
まるでその様子はわかっていたやったいたずらを責められ、苦しんでいる子供のようだ。
しかしクロックはあえて啓太を苦しめる。
彼を理想の支配者とするために。彼を縛る鎖を解き放ち、解放するために。
「わかってるくせに。もう気づいているんでしょう?
もう自分が元の平凡な生活に戻れないことに。
私たちを手放した生活なんてもう考えられないことに」
「ち、違うっ。お、オレは・・・!」
「主人を愛し、主人に尽くすように作られた存在、それが怪人。
その私たちの奉仕に、まともな人間であるあなたが堕落せずにいられると思ったのですか?」
「――――ッ!?」
その言葉に啓太は言葉を失う。啓太自身もうすうす気づいていた。
怪人たちが自分から離れられないのと同じように、自分自身も怪人たちから離れられなくなっていることを。
だがそれも無理からぬことだった。
彼女たちはあまりにも自分に対して優しかった。
尽くしてくれた。自分のことを何よりも考えていてくれた。
ただでさえ粒ぞろいなのに、身も心もささげてくれるのだ。
こんなすばらしい連中を捨てるだなんてできるわけがない。
怪人たちのためと今まで無意識のうちに隠してきた本心をむき出しにされ、啓太は絶望と衝撃で動けなくなる。
崖っぷちギリギリまで追い詰められた啓太。
しかしそんな啓太に、クロックが差し出したのは意外な言葉だった。
「でもそうなっても仕方のないことです。
啓太様は一般人の出で、私たちは啓太様に尽くすことしか知らないのですから」
「・・・え?」
「だからこそ私は啓太様のまわりを女怪人だけを配置し、しきりに啓太様に領土の拡大を訴えたのですよ。
もっと啓太様に素直になっていただくために、ね」
それは虚実を交えた告白であった。
確かにクロックは啓太の欲望を満たすために動いてはいる。