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図書館からの帰り方
官能リレー小説 - SF

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図書館からの帰り方 8

「いえ、これはうっかり川に落ちてですね……」
「すぐに手当てをします。こっちに来てください」
歌梨奈は雄鯉の話を聞こうともせず、彼を抱きかかえると自室に連れ込もうとした。衰弱し切った雄鯉は全くこれに抵抗できず、ずるずると扉の中へと引きずり込まれていく。
「ちょっと、止め……」
「抵抗しないでください。傷に障りますよ!」
部屋の中を引きずられた雄鯉は、靴を履いたままの状態で畳に押し倒された。続いて歌梨那は彼にのしかかり、馬乗りの体勢になって顔を近づける。
「くお……」
「いいですか」
どうにかひっくり返そうともがく雄鯉の耳元で、歌梨奈はささやいた。
「今用意をして来ます。必ずここで待っていてくださいね。もし私が戻って来たときにいなかったら、あなたに強制猥褻をされたって警察に訴えますから」
上体を起こし、ワンピースの肩紐を片方外して見せる歌梨奈。思いもかけない脅迫だった。
「そ、そんな……」
どうしてよいか分からず、雄鯉は動けなくなってしまう。そんな彼に、歌梨奈はにっこりと微笑み、立ち上がって部屋の外へと姿を消した。
――何なんだ、一体……?
残された雄鯉は、全く状況が読めずにいた。あの岬川歌梨奈という女性は、一体何がしたいのだろうか。
――って、それを考える前に立たないと……
今にも気絶しそうだった。意識を保つために、座ることでさえ避けてきた雄鯉である。このまま寝転がっていたらどうなるか、考えるまでもない。何はなくとも立ち上がろうと、雄鯉は試みた。
「うおお……あれ?」
ところが立てなかった。腕にも足にも、胴体にも全く力が入らない。どうやらさっきの歌梨奈との揉み合いで、完全に余力を使い果たしたらしい。
――まずいよこれは……
雄鯉にとって、間違いなくここはアウェイの場所である。手当てをしてくれると言う歌梨奈だが、突然の入居と言い、あの脅迫的な態度と言い、とてもではないが信用できたものではない。この場所で無防備な状態を晒すわけには、どうしても行かなかった。
――負けるか!
半ば朦朧としてきた意識の中、雄鯉は鞄からペンケースを取り出し、中身を畳の上にぶちまけた。その中からシャープペンを拾って右手に握り、尖った部分を左手の親指と人差し指の股の辺り、いわゆる合谷(ごうこく)というツボに突き立てる。
ブスッ!
「おんがあああああああっ!」
痛いなどと言うレベルではなかった。畳の上を樽のように転がりながら、雄鯉はとてつもない悲鳴を上げてしまう。時間帯からして、もしかしなくてもメガトン級の近所迷惑だろう。
――後で、菓子折持ってみんなの部屋回らないと駄目だな!
だが、犠牲に見合うリターンはあった。痛みのおかげで意識がかなりはっきりし、体に力も入るようになったのである。
「ぬおっ!」
素早く立ち上がる雄鯉。だが次の行動を考える前に、歌梨奈が戻って来てしまう。彼女の手には、濡れタオルと救急箱があった。

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