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図書館からの帰り方
官能リレー小説 - SF

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図書館からの帰り方 6

プシュー、ガタン
扉が閉まり、電車が動き出した。車内はほとんど貸し切り状態だったが、前述の理由で雄鯉は座席に着かない。吊り革にぶら下がりながら、彼はこれからの行動について考え始めた。
――帰ったら、どうする?
まずは何をおいても、ネットで暗視装置を購入しなければならない。正直二度と遭いたくはないが、再び透明女に出くわすかも知れないからだ。そのときには赤外線による暗視装置が絶対に必要だろう。いかに光学迷彩でも、赤外線でなら見えないことはない、と思う。
――その次は傷の手当てだな。それでも学校に行くまで時間に余裕があったら、少し寝るか。
そう、雄鯉はアパートに戻った後、普通に高校へ通うつもりでいた。この期に及んで自分のライフスタイルを崩そうとしない辺り、なかなかの傾奇者(かぶきもの)である。ただのバカとも言うが。
ともあれ、あれこれ考えるうちに、電車は雄鯉の自宅近くの駅に到着する。
「行くか……」
雄鯉は電車を降り、出口に向かった。先程の経験を生かし、駅員から顔が見えないようやや背け気味にして改札を通過する。外に出ると、いつしか夜は明けていた。
「はあ、はあ……」
雄鯉はアパートまでの道のりを歩き出した。倒れるほどではないものの、少々目まいと吐き気がする。だが今の自分の状態で、タクシーに乗るわけにはいかなかった。どうあっても、最後まで歩き通すしかない。
「糞っ垂れが……」
毒付きながらも駅前、住宅地と少しずつ進んでいくと、いつしか道の両側に雑木林が現れた。思い出すまでもない。昨夜透明女と出くわし、戦闘を繰り広げた場所である。
「そうだ……」
ふとあることを思い出し、雄鯉は立ち止まった。横に曲がって雑木林に入り込み、何かを探し始める。
「確か、この辺りに……」
彼が探しているのは、昨夜茂みに投げ込んだ鞄だった。透明女から一度離れるときに手放したのだが、ここで思い出したのを幸い、拾って帰ろうと考えたのである。
「どこだ……?」
さすがにすぐには発見できなかった。だがよくよく捜索してみると、草むらの陰の土の上に転がっているのが見つかる。
「あった……よかった」
雄鯉は鞄を拾い上げ、肩に掛けようとした。だが手に抱えた瞬間、彼はちょっとした違和感を覚える。
――ん……?
地面に触れていた部分が、それほど濡れていないのである。布製の鞄で一晩土に触れていたのだから、もう少し湿っていてもいいはずだが。
――まあいい。今は帰るのが先だ!
とは言え、今の自分に難しいことは考えられない。そう判断した雄鯉は、とっとと鞄を担いで道路に戻ることにした。そもそも今のコンディションでは、鞄の存在を思い出せただけで、奇跡的なことなのである。
「ぐはあ……やっと着いた」
そしてさらに歩き続け、雄鯉はようやくアパートに到着した。いろいろ事情があって、現在彼はここの一室に一人で暮らしている。

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