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図書館からの帰り方
官能リレー小説 - SF

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図書館からの帰り方 5

「くお……豪(えら)い目に遭った……」
雄鯉は目を覚まし、開口一番不平をぶちまける。あの透明女(雄鯉はヘルメットの女性を、便宜的にそう呼ぶことにした)に攻撃されまくったせいで全身が痛い。川の中で岩にでもぶつけたのか、背中までもがズキズキした。
「うおっ……でやあっ!」
それでも屈することなく、彼は気合とともに立ち上がった。だが疲労と負傷を差し引いても、妙に体が重い。それは服が濡れているせいだと気付いたのは、川原を離れ街中の案内地図を見て、最寄の駅にたどり着いたときだった。
――やっぱり、相当疲れてるな……
その場に倒れ込んで気を失いたい衝動をこらえ、雄鯉は切符売り場に近づいた。まだ夜は明けていないが、時刻表を見るにそろそろ始発は出るはずだ。川に落ちたとき財布を無くさなかった悪運に感謝しつつ、彼は小銭で自宅近くの駅までの切符を購入した。
――とにかく帰らないと。寝るのはそれまで我慢だ!
改札を通り抜けると、駅員が雄鯉の姿を見て悲鳴を漏らした。
「ひっ!」
鏡がないので確認できないが、相当酷い外見になっているのだろう。しかし雄鯉の鬼気迫る様子に恐れを成したのか、駅員はそれ以上声をかけることなく、黙って彼を見送った。
「ふう……」
自動販売機で缶コーヒーを買い、立ったまま飲み始める雄鯉。ここに来て、彼はようやく落ち着きを取り戻した。できればベンチに腰をかけたい所だが、座るとそのまま気絶する可能性大なのでやめておく。
――あれは結局、何だったんだ……?
たった一人しかいないホームで始発電車を待ちながら、雄鯉は自分が体験したことについて考えを巡らせ始めた。
あの透明女と猫耳少女は、一体何者だったのか?
透明女はあの後どうしただろうか?
猫耳少女は、無事に逃げ延びることができたのだろうか?
「……馬鹿か僕は。考えたって分かるはずないだろう」
ピースの欠けたジグソーパズルを組もうとしていたことに気付き、雄鯉は苦笑した。あの出来事が何だったのかを検討するには、情報が少なすぎる。ただ一つはっきりしているのは、自分が何か尋常ならざることに遭遇してしまったということだけだ。
――でもそうすると、このまま真っ直ぐ帰っていいものかな?
あの異常な事態を、しかるべきところに通報した方がよいのではないか。そんな疑問が一瞬雄鯉の頭に浮かぶ。だが、警察に先刻の出来事を話した所で、まともに取り合ってくれるはずがないとすぐに考え直した。何か物的証拠でもあれば別なのだが。
――やっぱりここは、部屋に戻って体勢を立て直すしかないな!
改めて帰宅を決意した雄鯉の耳に、電車の到着を告げる駅のアナウンスが響いてきた。程なくして、始発電車がホームに滑り込んでくる。中身のなくなったスチール缶を握り潰してゴミ箱に放り込み、彼はその電車に乗り込んだ。

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