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図書館からの帰り方
官能リレー小説 - SF

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図書館からの帰り方 4

――もう無理……か?
さすがにきつい。あっと言う間に彼の意識は遠くなり始め、膝を突いて倒れ込みたい衝動に駆られた。だがそんな中、雄鯉はふとあることに気付く。
額に攻撃をもらった後、回し蹴りと思しき衝撃が左の脇腹に来ることが多いのである。おそらく相手は、そういう連続攻撃を得意にしているのだろう。
――逝くしかないな!
雄鯉は腹をくくった。ならばその得意技を利用させてもらおう。彼は次に額を攻撃されるときを待ち、タイミングを見計らって左脇に何かを抱える動作をする。
「くお!」
雄鯉の狙いは当たった。人間の足らしき感触が腕の中に残ったのである。多分右の脛辺りをホールドしているのだろう。「何っ!?」という驚いたような声が、相手の方から聞こえてきた。
「うおおおっ!」
雄鯉は間髪を入れず、次の行動に出た。もう息も絶え絶えなのだが、この機を逃すわけにはいかない。腰を落としつつ体を左に回転させ、相手の右足の下に右肩を潜り込ませる。さらに右腕で相手の太腿を下から抱えた。最後に両足を踏ん張って立ち上がり、相手の体を浮き上がらせる。足一本背負いという技だ。
「行けええっ!」
「なっ!?」
そして、雄鯉は持ち上げた相手を欄干越しに川へと投げ捨てにかかった。地面に倒してどうこうする体力が残っていない以上、こうでもするしかないのである。
「このっ!」
「えっ!?」
だが、ヘルメットの女性もただ投げられるばかりではなかった。両足で雄鯉の体をはさみ付け、投げ出されるのを防ごうとする。
――だったらこうするまでだ!
雄鯉は自ら欄干を乗り越え、相手ごと川へと飛び込んだ。
「はああっ!」
「うわっ!?」
バアァン!!
川面に大きな水柱が揚がる。全身に衝撃を感じるのと同時に、雄鯉の意識は途絶えた。
「ぬうっ! 不覚!」
一方、ヘルメットの女性は気を失わなかった。着水のショックで雄鯉の体こそ離してしまったものの、すぐに泳ぎ出して体勢を整える。
「どこだ? ええい、エイレル波モード……駄目か……」
彼女は水面から首だけを出し(当然その姿は周囲から見えないが)、何らかのハイテクを駆使して雄鯉の姿を捜し求めた。だが、流されていった相手の姿をどうしても見つけることができない。やむなく彼女は、岸へと泳ぎ川から上がった。そしてヘルメットに仕込まれていると思しき通信装置を用い、どこかと連絡を取り始める。
「アルタクレアです。応答してください……はい……いいえ、申し訳ありません。予想外の事態が発生しました。詳しい状況は帰還後に……はい……」
やがて通信を終えた女性、アルタクレアは地面を蹴り、猛烈なスピードでその場を離れていった。そして後には、かすかな靴跡と彼女の体から落ちたごく少量の水滴が残されたのである。

それから数時間後、アルタクレアが上がった場所より数十キロ下流の岸辺に、一人の少年がマグロのように打ち上げられていた。言うまでもなくこの物語の主人公、玉波雄鯉である。

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