PiPi's World 投稿小説

図書館からの帰り方
官能リレー小説 - SF

の最初へ
 17
 19
の最後へ

図書館からの帰り方 19

「お、お待たせ……」
「ど、どうしたの雄鯉君、その怪我……?」
お互いの顔がはっきり見えた途端、みづりは驚きの声を上げた。仕方ないと雄鯉は思う。体の怪我こそ、歌梨奈にもらった寝巻で隠れてものの、顔にはいくつもの絆創膏が露わになっているのだから。
「ちょっと、川に落ちちゃってね……我ながら、ドジと言うか何と言うか……」
雄鯉は、歌梨奈にしたのと同様、当たり障りのない返事をした。
「ふうん。そうなんだ……」
幾分怪訝そうな雰囲気を漂わせながらも、みづりはひとまず納得の様子を示した。
「…………」
「…………」
その後しばらく沈黙が続く。破ったのはみづりだった。
「ねえ、入っていい?」
「あ……ご、ごめん。え、ええと……」
相手を外に立たせたまま話をしていたことに気付いた雄鯉は、思わず謝罪した。しかし、みづりを部屋に入れていいものか、一瞬迷う。部屋の中には、明日使う武器や防具が散乱しているからだ。見られたら、彼女に何か勘ぐられるかも知れない。
「……うん。どうぞ」
だが、雄鯉の度を越した格闘狂ぶりは、あまねく知れ渡っている。何とか誤魔化せると思い、結局はみづりを中へと招き入れた。
「お邪魔するね」
敷居をまたいだみづりは、ドアを閉めると鍵をかけ、何故かチェーンまでかけた。そのとき雄鯉は、みづりが学校の制服のブレザー姿であることに気付く。そして奇妙なことに彼女は、やたら大きなバッグを肩にかけていた。ノートとプリントを持って来たにしては、明らかに多過ぎる荷物量である。
「何か、凄い荷物だね……」
「…………」
先に立って部屋の奥へと進みながら、雄鯉は水を向けてみた。だが、みづりは全く返答せず、黙ってついてくる。
「ど、どうぞ」
雄鯉は、みづりをダイニングへと通した。椅子の1つを引き、座るよう勧める。
「今、お茶淹れるから……」
そのままキッチンに向かおうとする雄鯉。だが、彼の前にみづりが立ちふさがった。
「いいよ。私がやるよ」
「え? でも浮橋さんはお客さんだし……」
「雄鯉君にお茶の用意なんかさせたら、何のためのお見舞いか分からないよ。いいから座ってて」
「いや、しかし……」
「…………」
ジリジリと前進し、雄鯉を押し戻そうとするみづり。そのプレッシャーに屈し、雄鯉は結局椅子に座った。
「よ、よろしく……」
「あ、それとね、雄鯉君」
一度、荷物を持ったままキッチンに向かうみづりだったが、足を止め、雄鯉の方を振り向いて言った。
「雄鯉君独り暮らしでしょ? そんな状態じゃ、何にも食べてないよね?」
「え? いや、それは……」
雄鯉は歌梨奈のところで、お粥をご馳走になっている。何も食べていないというのは、さすがに語弊があるだろう。少し口ごもる。
「食べてないよね!?」
みづりは雄鯉に顔を近づけ、強い口調で再度質問してきた。肯定以外の返事を認めないような、圧迫感がある。雄鯉は已むなく、
「う、うん……」
と頷いた。

SNSでこの小説を紹介

SFの他のリレー小説

こちらから小説を探す