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図書館からの帰り方
官能リレー小説 - SF

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図書館からの帰り方 20

「そうだよね。そうだよねえ」
我が意を得たりとばかりに頷いたみづりは、バッグをどさりとテーブルの上に置いた。
「食材買って来たよ。ご飯作ってあげるね」
「え……?」
どうしてそんなことまでしてくれるのだ? 雄鯉は戸惑ったが、みづりはさも当然のように、バッグを開けてスーパーの袋を取り出し始めた。
「あの……飯ぐらい自分でどうにでもできるから、そこまで気を使ってもらわなくても……」
「怪我人の癖に、我がまま言わないの」
みづりはそう言うと、人差し指で雄鯉の口を押さえた。
「んっ……」
雄鯉が黙り込むと、みづりは満足したように頷いた。そしてバッグからエプロンを出して身に着け、食材の袋を持ってキッチンへと入っていく。
後に取り残された雄鯉は、ぼんやりとその後姿を見送るだけだった。
――そう言えば、女の子が僕の家に来るのって、初めてだったなあ。
普通ならドキドキするようなイベントなのだろう。だが、つい一日前に謎の透明女と戦闘を交え、いつまた得体の知れない状況になるか分からない今の雄鯉には、そのドキドキも今一つ実感がなかった。
――おっと。こうしちゃいられない。
みづりがキッチンに立っている今のうちに、喧嘩道具を片付けてしまおう。そう思った雄鯉は椅子を立ち、部屋に戻ろうとした。その途端。
「雄鯉君、どこ行くの?」
突然、出刃包丁を持ったみづりがキッチンから顔をのぞかせた。恐らく雄鯉が椅子を引いた音を聞きつけたのだろう。彼女の鋭い視線は、あたかも『勝手に出歩くな』と言っているかのようで、雄鯉は軽い戦慄を覚えた。
「ちょ、ちょっとお手洗いに……」
「そう。一人じゃ大変でしょ? 介助してあげようか?」
「い、いや……浮橋さんは料理の方お願い……」
付いて来られては大変である。雄鯉は逃げるようにダイニングを出た。
部屋で道具を押し入れに放り込みながら、雄鯉は思う。
――いやいや。浮橋さんのこと怖いなんて思っちゃ駄目だよな。こんな僕のことを気にかけて、家にまで来てくれたのに……
片付けが終わって押し入れの扉を閉め、部屋を出るために振り返ったとき、
「うわっ!!」
雄鯉は驚愕する。すぐ真後ろにみづりが立っていたからだ。あまりに近すぎて、振り向くとき、彼女のふくよかな胸に手が当たりそうになったほどだ。
「……惜しい」
「えっ? 何、浮橋さん? ていうか、なんでここに?」
「何でもないよ。もうすぐ料理できるから呼びに来たんだけど」
「う、うん……」
みづりの後ろから歩きながら、雄鯉は思った。
(……浮橋さん、いつから僕の後ろにいたんだ? 気配を全く感じなかったぞ。もしかしたら、喧嘩道具とかも見られたかな……?)
聞いてみようかとも思うが、逆に藪蛇になっても難儀である。雄鯉は黙ったままダイニングに戻った。

…………

「はい。あ〜ん」
「じ、自分で食べるからスプーン貸してよ……」
「学校にも来られない怪我人が何言ってるの? はい、あ〜ん」
盛り付けられた料理を前に、雄鯉は困惑してた。みづりが彼に箸やスプーンを渡さず、みづり自身の手で食べさせようとしてくるのである。
「気持ちは嬉しいけ「じゃあ食べてよ!」…………」
このまま揉めているのも不毛だ。雄鯉は観念して口を開けた。
「えへへ……雄鯉君、私の献身的な介護なしじゃ、もうご飯も食べられないね……」
みづりは嬉しそうに、スプーンですくった料理を雄鯉の口に運ぶ。
(別に、半身不随とかになったわけじゃないんだけどな……いや、そんなことはどうでもいい)
雄鯉はちらりと窓の外を見た。とうに夕方は過ぎて、夜になってしまっている。女性を一人で帰らせるには不安な時間帯だ。
元気な時なら、造作もなくみづりを彼女の自宅まで送って行けるのだが、今の雄鯉の状態では厳しい。みづり本人はどうするつもりなのだろうか……
「あのさ、浮橋さん」
料理を咀嚼して飲み込んでから、彼は言った。
「何?」
「もしかしてこれから、家の人が迎えにくるのかな……?」
「無理。うちの両親、泊りがけで出かけてるから」
「えっ? じゃあ浮橋さん、これからどうするの……?」

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