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図書館からの帰り方
官能リレー小説 - SF

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図書館からの帰り方 16

「少し待っていてくださいね。すぐにお体を拭いて、包帯を取り替えますから」
お盆を持ち、土鍋を片付けようとする歌梨奈。彼女が部屋を出ようとしたとき、雄鯉は後ろから声をかけた。
「あ、あの、岬川さん」
自分が帰ることを、早目に告げた方がよいと思ってのことだった。歌梨奈が振り向き、雄鯉に聞き返す。
「何ですか?」
「ぼ、僕、今日はこれで失礼します」
「ええっ? でも今日は泊まった方が……」
「体の方は、もう大丈夫です。明日の用意もありますし、これで……」
「そうですか……分かりました。ちょっと待っていてくださいね」
歌梨奈はそのまま、部屋を出て行った。どうやら、納得してくれたようだ。
「よかった……くお!」
力を振り絞り、雄鯉は布団から立ち上がった。さて、どのぐらい動けるだろうか。試しに布団を畳むと、全身が軋むような痛みを感じる。
――糞! この程度の労働でこれか! 完全復調にはまだまだだな!
畳んだ布団の上に腰かけ、雄鯉は荒い息を吐いた。そこへ歌梨奈が戻ってきて、たちまち顔をしかめる。
「まあ、雄鯉さん……そんなことしなくていいのに……」
歌梨奈は、濡れたタオルと救急箱、それに何かを入れた袋を持っていた。雄鯉の側に近付くと、彼女はそれらを床に置く。
「帰る前に、包帯だけ替えさせてください。ずっとそのままだと不潔ですから」
「はい……」
多少帰宅が遅れるのは、今は特に問題ではない。雄鯉は歌梨奈の好意に甘え、体を拭いてもらい、包帯や絆創膏を取りかえてもらう。
「あ、ありがとうございます……」
「これ……よかったら着てみてください」
歌梨奈が袋から取り出したのは、男物の寝巻だった。雄鯉の体格にぴったりのサイズである。
「これは?」
「雄鯉さんが起きたら着てもらおうと思って、買っておいたんです。どうぞ」
「すみません。何から何まで……」
いくら隣とは言え、今の恰好(ミイラ男状態)で外に出るのは気が引けるところだった。脱いだカッターシャツとズボンを、濡れたまま着るしかないと思っていたのだが、新しい服がもらえるならその必要もない。
雄鯉は歌梨奈に助けてもらい、その寝巻を着た。
「それから、これ、雄鯉さんが着ていたお洋服です。クリーニングしてお返ししようと思ったんですけど、その……」
「どうか言わないでください。その先は……」
雄鯉は歌梨奈を制し、黙って彼女の差し出す袋を受け取った。中身は多分ズタボロで、二度と着られる状態ではないのだろう。アルバイトと格闘技の試合でようやく生計を立てている雄鯉としては、何気に痛い損害だった。ちょっと涙が出る。

「それじゃ、ドアを開けますね。雄鯉さん、本当に大丈夫ですか?」
「はい……お世話になりました」

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