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図書館からの帰り方
官能リレー小説 - SF

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図書館からの帰り方 15

大家さんの姿と声に戻ったエミエルザは、足音を立てないように退出する。後には浮かない顔の歌梨奈が一人、残された。

…………

「んん……」
意識を取り戻した雄鯉は、静かに瞼を開き、眼球を動かして周囲を見渡した。
――ここは……岬川さんのところか。どうやら、あのまま普通に寝てたみたいだな。
どのくらい寝ていたのだろうかと、雄鯉は思った。窓から差し込む日光の様子からして、今は夕方らしい。どこかに時計はないかと体を起こした瞬間、彼の全身にずきりと痛みが走る。
「ぐあっ!?」
人一倍頑丈な体を持つ雄鯉とは言え、あれだけの怪我が数時間寝た程度で治る訳がない。彼は布団の中にドサリと倒れ込み、大きく息を吐いた。
「はあっ……」
そのとき、ガチャリと音を立てて部屋のドアが開いた。
「ん?」
「大丈夫ですか? 雄鯉さん!」
歌梨奈が駆け込んでくる。どうやら、雄鯉の漏らした声が聞こえたようだ。
「す、すみません。変な声出して……」
「まだ動いちゃ駄目です。安静にしてください」
再び体を起こそうとした雄鯉を、歌梨奈は優しい手つきで布団に寝かしつけた。
「今、お粥作ってるんですけど……食べられそうですか?」
「……すみません。いただきます」
思えば、昨日の夜に図書館の食堂で食事をして以来、雄鯉は何も食べていなかった。歌梨奈が作ってくれるお粥を、ありがたく頂戴することにする。
「それじゃ、待っていてくださいね」
立ち上がり、部屋を出て行く歌梨奈。雄鯉は天井を見上げ、これからどうするかを考えた。
――長居しちゃまずい事情は変わってないし、明日の用意もある。食事を恵んでもらったら、部屋に戻るか……
そこまで決めたとき、歌梨奈がお盆を手に再び入室してきた。お盆には土鍋のようなものが乗っている。
「お待たせしました」
「あ、ありがとうございます……」
歌梨奈はお盆を、雄鯉の傍らの床に置く。体を起して土鍋に手を伸ばそうした雄鯉は、またしても歌梨奈にたしなめられた。
「駄目ですよ。私が食べさせてあげますから」
「え? でも……」
「いいから、寝ていてください」
歌梨奈は土鍋の蓋を開けた。中身はミルク粥らしく、香ばしい匂いが雄鯉の鼻に届く。
――うわ。食欲が湧いてきた……
スプーンを取り、お粥をかき混ぜた歌梨奈は、一匙すくって雄鯉に差し出した。
「はい。あ〜んしてください」
「あの、僕、自分で……」
「あ〜んしてください」
「…………」
雄鯉は観念し、床に横たわって口を開いた。そこに歌梨奈の手によって、お粥が運び込まれる。
「ムグ……」

…………

「ごちそうさまでした……」
「お粗末様でした」
「とても美味しかったです」
お粥を食べ終わった雄鯉は、率直な感想を言う。実際、ここはどこの高級レストランですかと聞きたくなるほど美味だった。

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