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図書館からの帰り方
官能リレー小説 - SF

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図書館からの帰り方 13

「な、何ですか……?」
「何って、学校をお休みするんですから、欠席届を出さないと駄目じゃないですか」
「え……? まだ休むと決まったわけじゃ……」
「何ですか?」
突然歌梨奈が、凄まじい視線を雄鯉にぶつけてきた。背後からは大家さんのプレッシャーも感じる。どうやら学校を休まない限り、この場は収まらないようだ。増してや、昨夜の出来事など話せる雰囲気ではない。話そうものなら、「今更何訳の分からないこと言ってるの?」と切り捨てられるだろう。
「うぐう……」
「さあ!」
「雄鯉ちゃん!」
「わ、分かりました……」
渋々雄鯉は携帯電話を受け取り、規定の手続きに従って、欠席届のメールを学校に送信した。横から覗いていて送信を確認した歌梨奈は、押入れの襖を開け、いそいそと布団を出し始める。
「さあどうぞ。休んでください、雄鯉さん」
瞬く間に布団を敷き終わった歌梨奈は、雄鯉にそこに寝るよう促した。だが、この期に及んで雄鯉は、最後の抵抗を試みる。
「あ、あの僕、自分の部屋で……」
「何言ってるの!? 岬川さんがこんなに親切にしてくれてるのに!」
またもや大家さんが声を荒らげた。歌梨奈も険しい眼つきで雄鯉を睨む。いつの間にか2人とも部屋の出口を塞ぐような位置に立っており、雄鯉が逃げられないようにしていた。
「……お休みなさい」
万策尽き果てた雄鯉は、服と鞄を畳に置いて布団に入り込んだ。歌梨奈の部屋で休むことで、昨夜の出来事に歌梨奈達を巻き込まないかが不安だが、ここまで手当を受けた以上、ここで帰っても帰らなくても大差ないと割り切ることにする。甘さと言えば甘さだが、もはや歌梨奈達を押しのけたり、説得したりする気力は彼に残っていなかった。
「くぅ……」
横になった雄鯉は、一瞬のうちに、自分の意思と関係なく意識を手放す。極度の疲労と負傷に加え、横になることで緊張の糸が切れては、当然の結果であった。
スゥ……スゥ……
やかましかった室内が一転、静寂に包まれた。今や聞こえる音と言えば、雄鯉の寝息ぐらいである。しばらく彼の寝顔を見つめていた歌梨奈と大家さんは、やがてカーテンを閉めて日光を遮ると、部屋を出て行き扉を閉めた。

「…………」
「…………」
ダイニングに移動した歌梨奈と大家さんは、しばらく無言で向かい合っていた。やがて歌梨奈が先に口を開く。
「……エミエルザね?」
「そうです。いいタイミングだったでしょう? カリーナ・サキ」
歌梨奈に答える大家さんの声色が、突然今までと違うものになっていた。外見相応に低くしゃがれ気味だったのが、高く澄んだものになっている。そしてカリーナ・サキと呼ばれた歌梨奈は、黙って部屋のカーテンを閉めた。
「いいわ。擬態を解きなさい」
「分かりました」

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