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図書館からの帰り方
官能リレー小説 - SF

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図書館からの帰り方 12

――そうすると、歌梨奈さんとあの透明女は、やっぱり無関係だったのかな? 昨日ここに来たのはただの偶然で……
そう考えた雄鯉は、歌梨奈に昨夜のことを話すべきかどうか迷い始めた。彼女が一般人だと分かった以上、わざわざ話して気違い扱いされる必要はないかも知れない。適当な理由を付けてここを辞する方が、やはりいいのではないだろうか。
――う〜ん……
考えながら、雄鯉は再び歌梨奈と大家さんの会話に耳を傾ける。
「とんでもありません。とても快適です。お隣の雄鯉さんとも、仲良くさせてもらってますし……」
「あら、雄鯉ちゃんと? いつ会ったのかしら?」
「それが……ついさっきなんです。雄鯉さんがどこかでお怪我をされて、今ここで手当てをしているんです」
「まあ、雄鯉ちゃん大丈夫かしら……ちょっと上がらせてもらっていい?」
「ええ、どうぞ」
そして、パタパタという2人分の足音が聞こえ出した。
――うわ、こっちに来る!
突然のことに慌てる雄鯉だったが、かと言って逃げ隠れする状況でもない。その場に突っ立ったまま、大家さんと対面することになった。
「お、大家さん……」
「まあ、雄鯉ちゃん。どうしたのそれ?」
包帯だらけの雄鯉を見て、大家さんも顔をしかめた。雄鯉は歌梨奈に会ったときと同様、当たり障りのない答えでお茶を濁す。
「いえ、これは、橋から川に落ちてですね……」
「大丈夫なの? かなりひどそうだけど……」
「だ、大丈夫です。今からがっこ……」
「聞いてください、大家さん」
雄鯉の台詞の途中で、後からやってきた歌梨奈が割り込んできた。
「雄鯉さん、こんな状態だから、今日はここで休んでほしいってお願いしたんです。でも雄鯉さん、今から学校に行くって言うんですよ」
「まあ、本当なの雄鯉ちゃん?」
「ええ、まあ……」
「駄目じゃないの! そんな無理しちゃ!」
「ひっ! あ……すいません……」
雄鯉は首をすくめた。両親のいない彼にとって、親代わりとは言えないまでも何かと世話を焼いてくれる大家さんは、等閑にできない存在である。叱られるのは応えた。縮こまっていると、歌梨奈が前に進み出る。
「でも、私もいけないんです。私、雄鯉さんと初対面なのに出過ぎたことを……」
歌梨奈は、雄鯉をかばうような発言をする。それを聞いた大家さんは、噛んで含めるように雄鯉に説明し始めた。
「あのねえ、雄鯉ちゃん。急に入居が決まってびっくりしたかも知れないけど、この岬川さんは身元の確かな人なのよ。岬さんのご実家には、うちの父が昔からお世話になっていてね、今度そこのお嬢さんの歌梨奈さんがお部屋を借りたいって言われて、喜んでお引き受けしたのよ」
「そ、そうでしたか……」
雄鯉は頷いた。もう歌梨奈の身元について、疑う余地はなさそうだ。
「では、決まりですね。はい」
「?」
声をかけられて振り向くと、歌梨奈が雄鯉の携帯電話を差し出していた。いつの間にか鞄から抜き取ったようだ。

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