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図書館からの帰り方
官能リレー小説 - SF

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図書館からの帰り方 11

「…………」
――僕は、無様だ……
雄鯉は、自己嫌悪に陥っていた。
相手のことを信用しないと決めた癖に、それが露見して向こうが傷ついたかも知れないと分かった今、彼は心苦しさを感じていたのである。全くもって、勝手なものだと思う。
――どうしようか。
雄鯉は悩んだ。始めの予定を貫徹するなら、何か適当に取り繕って、強引にでも自室に引き上げるべきである。
しかしそれでは、今の心苦しさを引きずったままになる。この雄鯉という少年に、それはできなかった。
――この際、仕方がないな。
腹を括った雄鯉は、心苦しさを晴らす手段を取ることにした。その手段とは、昨夜自分が体験した出来事を全て歌梨奈に話すことである。
もちろん、話したからといって、歌梨奈が「ああ、それでは信用できなくても仕方ないですね」と納得するわけはないと雄鯉は思う。
歌梨奈が昨夜のことと無関係だった場合、間違いなく雄鯉のことを妄想を持った精神異常者だと思うだろう。黄色い救急車を呼ばれるかも知れない。
それでも、適当なことを言って誤魔化すよりはいい。
黄色い救急車を呼ばれたなら、堂々乗り込んで精神科の診察を受けるまでだ。
また、歌梨奈が昨日の出来事に関係していた場合は、「ばれては仕方ないですね」と言って襲いかかって来るかも知れない。
そのときは、これまでの15年の人生で体に叩き込んだ、全ての格闘技術を駆使して応戦しよう。
――よし。これでもう迷うことはない。
どちらの場合に対しても、取るべき行動が決まった。雄鯉はゆっくりと、歌梨奈の方に振り向き話しかける。
「岬川さん……」
そのときである。唐突にインターホンの音が響いた。
ピンポーン
「ん?」
出鼻を挫かれた雄鯉は、アホのようにその場に立ち尽くした。来客のようだが、こんな朝っぱらから誰だろうか。手を拱いていると、いつの間にかワンピースを着直した歌梨奈が彼の側をすり抜け、玄関へと向かっていく。
「はい。今開けます」
やがて彼女がドアを開ける気配がした。雄鯉は顔を出さないように気を付けながら、そっと聞き耳を立てる。すると、雄鯉にとって実に聞き慣れた声がした。
「朝早くからごめんなさいね。岬川さん……」
――大家さんだ!
その声の主は紛れもなく、雄鯉が住むこのアパートの大家のおばさんに違いなかった。一体どういうことなのかと、雄鯉は二人のやり取りに耳を傾ける。先に歌梨奈の声がした。
「いいえ。お早うございます、大家さん。どうかなさいましたか?」
「それがね、部屋を気に入ってもらえたか心配で、つい見に来ちゃったのよ……岬川さんみたいな育ちのいい方には、うちの部屋はむさ苦しいんじゃないかと思って……」
――!?
雄鯉ははっとした。今の大家さんの口ぶりだと、どうやら歌梨奈のことを前から知っていたらしい。

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