世界の中心で平和を叫ぶ。 98
「ならばここで使い切ったほうがお得である、ですか」
「そういうことだ。ではさっさとここから退却するとしよう。
あと10分で氾濫が始まる。命が惜しければついてきたまえ」
「いえ、その必要はございません」
社長がその身も軽く席を立ったそのときだ。
開発部部長は懐から拳銃を一丁を取り出すと、その重厚を社長に向けて突きつけた。
驚愕に目を見開かせる社長。
それはあたかも、悪事を重ねてきた自分に対する判決を受けた受刑者のように。
「な、何のマネだ!?」
「何って・・・見ての通りの『下克上』です」
「ふ・・・ふざけるな!!
貴様、一体誰のおかげで今の役職についていると・・・!」
パンッ!
憤慨する社長に渇いた銃声が響いた。
それにわずかに遅れて社長の絶叫が響く。
部長が社長の左足を撃ったのだ。
「ええ、ええ。もちろんわかってますよ、社長。
ですがね、ここは悪の組織。
裏切り・下克上何でもありの非情な世界なんです。
それを忘れてもらっちゃあ困りますなぁ」
淡々と語る部長の言葉など聞こえていないようだ。
社長は恥もプライドもなく地べたを転げ回っていた。
「・・・まぁ、あなたが社員を生贄にする直前までは、裏切るつもりはなかったのですがね。
自分が生き残るために邪魔な人材を切り捨てるような危険な上司を、放置しておくわけにもいかんでしょう。
いつ自分も切り捨てられるかわかったもんじゃないし」
そう言うなり、部長は続けざまに拳銃を発砲。
放たれた銃弾は社長の手足を正確に撃ち抜いていく。
あまりの痛みに社長は気絶することすらできずにその場でその汚れた血を流していく。
社長が動けなくなったことを確認すると、部長はとどめを刺すことなく拳銃をしまう。
「・・・さて。そろそろこの辺も危ないので、我々はこの辺で失礼します。
社長。残った部下にはあなたが私たちを逃がすための囮となったことにしておきますね?」
「ふ、ふざけ・・・るな・・・!私も・・・連れて・・・!」
「残念ながらそれはお断りさせていただきます。
今のあなたは役立たずの危険分子だ。それに・・・。」
部長は先ほどまで社長が演説を行った席に移動すると、慣れた手つきでパネルを操作し始める。
「今のアンタは私の美学に反する。役立たずのゴミとして『生命の泉』の底に沈んでしまえ」
すると社長のいた床が開き・・・彼は重力に従って落ちていった。
大量の社員たちが溶けていった『生命の泉』へと・・・。
社長が消えたことを確認すると、部長は2度と社長のいた場所を振り返ることなく、部下の白鳥の元に戻ってきた。