世界の中心で平和を叫ぶ。 97
「しゃ・・・社長!お言葉ではありますが、怪人の力を持ってしても勝てない相手に我らの力などいかほどの役に立つかと存じますが!?」
「ククク・・・。心配はいらない」
その言葉に社長は薄ら寒い笑みを浮かべる。
その不気味さに、騒いでいた社員たちは言いようのない悪寒にみな口をつぐんだ。
「君たちの全員を『生命の泉(レーベンスホルン)』に放り込んで暴走させるだけのことなのだからな!」
ガタンッ!
『!!??』
その瞬間、社長の席を除いた会議室の床が開く。
その下に広がるのは先ほど役立たずと断じた社員を放り込んだピンク色の液体が広がっている。
「・・・ヒイィッ・・・!?」
甘い悲鳴を上げながら次々と社員たちが『生命の泉』に落ちていく。
その中で社員の1人が、社長から感じた、自分を怯えさせたモノの正体に気づいた。
それは敵味方問わずあらゆるものを破滅に導く――狂気。
「おおッ!?おッ、おおッ!?」
「とっ、溶けるゥッ!も、もっと私を溶かしてェッ!?」
「いっ、イヤだッ!?社長ッ!たっ、助け・・・!!」
「イヤだァァァッ!!死にだぐないイィィィッ!?」
怨嗟と嬌声。壊れた笑い声や悲痛な叫びをBGMに社長は会議室の床を元に戻した。
あれほど人のいた会議室には社長1人だけが残され、部屋は沈黙で満たされる。
「クックックッ・・・。ありがとう、社員の諸君。
後はタイマーをセットして『生命の泉』を氾濫させるだけ・・・」
「・・・そして施設内は『生命の泉』で満たされ、敵は全滅、もしくは大打撃を受けるというわけですか」
驚いた社長が振り向く先。
そこには席を外していたはずの開発部の部長が部下の白鳥を連れて立っていた。
部長は相変わらず飄々としているが、部下の白鳥はあまりの光景に声もなく社長に恐れおののいている。
「・・・ずいぶんと早いお帰りだね。もう少し時間がかかるものだと思っていたのだが」
「思いのほか早く済みましたのでね。
しかし一矢報いるためにずいぶんとひどいことをしたものですなぁ」
何もなかったかのような軽いやりとり。
しかしそれが後の舌戦の前フリに過ぎないことは、白鳥にもわかった。
「仕方なかったのだよ。あれほどの人数で移動すればすぐにバレてしまうからね」