世界の中心で平和を叫ぶ。 82
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ここで舞台は再び敵組織に移る。
場所は空と鈴を逃がした男が処刑されたあの暗闇の部屋である。
部屋の中央には開発部の部長が立っていた。
「・・・これはいったいどういうプランなのだね、岩沼君?」
「勝手に我が社の製品を大量に持ち出した上に任務に失敗・・・。
これは我が社の存続にすら関わる大失態ですよ?」
「左様・・・。使ったのが実験済みのサンプルや失敗作ばかりとは言え、これでは我が社の製品のイメージダウンは避けられん。
いったいどう責任を取るおつもりかな?」
まわりの重役たちの追及に、さすがの開発部部長も緊張を隠しきれない。
だが彼には切り札がある。
怪人たちを送り込んだ後で手に入れた切り札が・・・。
「何か言ったらどうだね!?ん!?」
「ではお言葉に甘えまして。
実は敵の中に、非常に興味深いサンプルがありましたのでこのような大掛かりな作戦を取らせていただきました」
「・・・興味深いサンプル?」
「はい。実は送り込んだあまたの怪人たちは、たった1名の怪人によって葬り去られているのです」
ざわっ・・・!
その言葉に重役たちがざわめきだす。
無理もあるまい。
いくら廃棄予定とは言え、たった1人で大勢の怪人を葬り去れるほどの怪人など聞いたこともないのだから。
「まさか・・・!ヤツらかっ!?」
「公安が強力な怪人を開発したというのかっ!?」
「いえ、違います。
対象は公安のヒーロー協会どころか、どこの組織にも属しておりません」
その言葉に再び会議場はざわめきだす。
開発部部長は頃合と見るや、合図を送って部屋の壁にある映像を映し出す。
そこに映っているのは戦闘モードの夢の姿である。
「この怪人・・・アンノウン(正体不明)は無所属でありながら我が社の怪人の情報を持っておりました。
それも廃棄ナンバーのを・・・です」
「なんだと・・・!?」
その事実に会議室は騒然となる。
売り出した製品の情報だけならまだしも、廃棄予定の怪人の情報など外部に漏れるはずはないからだ。
「しかもご覧の通り、今までの怪人と違い、身体の一部のみを変身させて戦うという、今までにない種類の能力を持っております。
これだけでも十分危険な存在かと思われますが?」
「・・・君の言うことも一理ある。
だがたった1体の怪人を倒すためにあれほど怪人を投入するのは解せないのだが?」
「それはアレ1体にそれだけの価値があると思ったまでです。
たとえ死体でもサンプルが取れれば、新たな技術革新として我が社に莫大な利益をもたらします。
つまり他のあらゆる組織の頂点に立つこともできるのです」
その言葉に周囲から『おおっ・・・!』と感嘆の声が上がる。