世界の中心で平和を叫ぶ。 79
首なし死体と化した怪人は、力なく倒れ、その周辺は血の海となる。
「う・・・」
そのすさまじい光景に、啓太は思わず逃げ腰になる。
しかし逃げるわけにはいかない。
啓太はなけなしの勇気を振り絞って死体を無視し、倒れたままの夢を抱き起こした。
「夢っ!大丈夫か!?」
「へ、平気です。それより啓太さま、何でこんな危険な場所に来たのですか!?
確かに約束の場所に来てくださいとは言いましたが、こんな危ないところを通らなくてもいいんですよ!?」
それは何とも場違いな発言だった。
この女はこの期に及んで啓太の身を案じているのだ。
啓太より夢のほうがすっと傷だらけだろうに。
一言文句を言ってやろうとすると、通りの向こうから人影が2つ、こちらに向かって走ってくる。
「夢さまーーー・・・ッ!?ご無事ですかーーーッ!?」
鈴と空だ。傷1つ負ってないところを見ると、どうやら夢がおとりとなって敵をひきつけて戦っていたようだ。
・・・いや待て。彼女たちに戦闘能力はないから、もしかしたら夢のほうが引きつけ役となって死闘を演じていたのかもしれない。
「あっ!?啓太さま!?ど、どうしてこのようなところに!?」
「空!話は後です!今は早くここから立ち去ることが先決です。
敵の増援や正義の味方が来たらやっかいです!」
「は、はい!?夢さま、啓太さま。早くこちらへ・・・!」
しかし啓太は呆然と立ち尽くすだけで動こうとはしない。
満身創痍の夢でさえ、痛みをこらえてここから立ち去ろうとしているのに。
「・・・・・・・・・・・・」
このとき啓太は考えていた。
自分の目の前で自分ごと夢を殺そうとして、逆に殺さされた怪人。
そしてそれを殺した満身創痍の夢。
しかしそんな彼女を見る啓太の脳裏にはいろんな記憶が呼び起こされていた。
ゴミ捨て場で倒れていた夢。
自分付きの怪人になると誓った夢。
自分の役に立とうと家事に挑んで大失敗した夢。
それは敵に襲われる前までの夢の記憶。
あの夢がこんなことをするなんて思いたくなくて。
でも夢は自分の目の前で怪人を殺したわけで。
恐怖や悲しみ、怒り、後悔。
今の啓太の頭の中には、いろんな感情があふれてどうしていいのかわからなくなっていた。
考えれば考えるほど訳がわからなくなって。
考えることが面倒くさくなった啓太は、おもむろに夢の頭を両手で押さえつけると、
「うみゃああああぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!??」
「!?」
ガツッ!
いきなり夢の頭に全力でヘッドパットをかましていた。