世界の中心で平和を叫ぶ。 77
でもわかっていても考えずにはいられなかった。
彼が夢からさせられようとしていることはそういうことなのだ。
「くそっ!オレは何迷ってんだよっ!?
夢たちを助けに行くんだろっ!?
鈴と空の仲間を助けてやるんだろっ!?」
啓太は自分に怒鳴り散らして立ち上がるものの、そこから一歩も動けない。
これからすることの重大さに、身体がすくんでしまうのだ。
何のとりえもない、一般人が偶然手に入れた怪人という存在。
本来悪事を働くために作られた力を手に入れた青年は、このとき初めてその重大さを感じ取っていた。
「くそぉっ・・・!!」
啓太は自分の無力さを呪いながら、その場にペタンと座り込む。
いったい自分はどうすればいい?
啓太が何度目かになる質問を自身に問いかけたそのときだった。
ドカァ・・・ンッ!!
「!!??」
遠くから鳴り響く爆発音。
嫌な予感がしてあたりを見回すと、夢たちが去っていった方角からいくつもの黒煙が立ち上っていた。
「夢・・・!?」
アイツ、オレを待ちきれずに作戦を始めやがったのか!?
その瞬間、脳裏にある記憶が呼び起こされる。
それは自宅で触手怪人に夢たちが捕らわれ、なぶられていた記憶。
そしてその記憶から最悪のイメージが連想される。
それは夢たちの、死・・・!!
血の海に沈む鈴。
殺された母のそばで泣きじゃくりながら殺される空。
そして怪人に首をつかまれ、今にも殺されそうな夢―!
その瞬間、啓太は煙の火元へ向かって走り出した。
そこには罪への恐怖も何もない。
大事なものたちを守りたいという一心が、今の啓太を動かし続けていた。
現場の付近までたどり着いた啓太は、野次馬の壁を見て、直感的に事態を把握する。
おそらく警察が付近一帯を封鎖したのだろう。
だが爆発が起こってからまだそんなに時間は経過していない。
まだ抜け穴があるはずだ。
啓太は一瞬の間にそれまで考えると、穴を探して再び走り出す。
息は切れ、身体のいたるところで休息を求める声が上がる。
だが啓太はそれを無視して走り続ける。
正直、メチャクチャ苦しくてたまらないが、それでも走る。
(ち、畜生!こ、こんな苦しいハメになるんだったら、日頃から運動しとけばよかった!)
しかしその甲斐あって何とか抜け穴を発見。
啓太は警察に見つからないように注意しながら再び目的地へと急いだ。
目的地に近づくにつれ、周囲の風景が少しずつ変化していく。
一刀両断された街路樹、壁や地面に残る焦げた跡や溶けた跡。
啓太がぶちまけられた赤黒い水たまりを見たときは、気持ち悪さのあまり胃の中身を吐き出してしまった。
それを見て啓太は確信する。
間違いない、夢たちはあの怪人の仲間に襲われたんだと。
そして目的地にたどり着いたとき、啓太は初めて本物の殺し合いを目の当たりにすることになる。