世界の中心で平和を叫ぶ。 76
「だったら信じて待ちなさい。
あまりわがままを言ってると啓太さまに捨てられるわよ?」
「・・・でも。お母さんたちはそれでもいいの?
啓太さまが私たちを見捨てちゃっても・・・!」
「我らは、道具。
持ち主が必要としないのであれば、それも本望さ」
努めて明るく言っているが、その顔には私たちを捨てないではほしいと狂おしいほどの思いのたけがにじみ出てしまっていた。
だが、そんな憂いを帯びた顔もすぐに引き締められる。
「・・・あのゲス怪人の後釜か・・・。
今度はずいぶんと団体さんで来たらしい・・・」
夢の不意のつぶやきに、鈴と空は身体をこわばらせる。
どうやら開発部の部長が放った怪人たちがやってきたらしい。
「何とも間の悪い奴らだ。
何も私の機嫌が悪いときに来なければいいものを・・・。
まあ、せっかく来てくれたんだ、せいぜいウサを晴らさせてもらうとするか・・・。
鈴!空!私のそばから離れずついて来い」
「「は、はいっ!!」」
「・・・行くぞっ!!」
夢の言葉を合図に、送り込まれた刺客たちが一斉に姿を現し、夢たちに襲いかかる。
夢たちは圧倒的不利な状況にもかかわらず、ひたすら前へ前へと進んでいく。
その先に愛しのご主人様がいることを信じて。
一方その頃。
1人残された啓太は、この物語を終わらせるか否かの選択を迫られていた。
・・・訂正。夢の言う作戦に、乗るか反るかを迫られていた。
断れば啓太は元の一般人に戻ることができる。
ただし夢たちとはもう会うことはない。
それは彼女らを見殺しにすることに他ならない。
しかしこの話に乗れば、おそらくまともな人生は送れない。
それは血みどろの人生を歩むということではない。
自分の中の大切なものを捨てるであろう事態を指している。
正直、夢たちとの生活は楽しかった。
男の夢の1つであるハーレムの主になれて、すごくうれしかった。
だが、誰かを犠牲にしてまでほしいとは思わない。
啓太はこの期に及んで悪事に手を染める決心がつかないでいた。
(どうする!?どうする!?どうする!?)
啓太は必死に悪事に手を染めずに夢たちと生きる方法を考える。
しかしいくら考えてもそんな都合のいい方法なんて出てこない。
そんなこと、言われずともわかっていたことだった。