世界の中心で平和を叫ぶ。 49
まさか気を使いすぎて怪しまれたか?
啓太の頭にそんな考えがよぎった時、鈴と空が口を開いた。
「「ほ・・・ホントに買ってくださるんですか?」」
「あ・・・ああ。そ・・・それなのに何でそんなに驚いてるん・・・だ?」
啓太は驚いた。言い終えるより先に、3人の目からポロポロと涙がこぼれてきたのだ。
「な、な、な―!?」
喜ばれる記憶こそあれ、泣かせる理由のない啓太はどうすればいいのかわからずに慌てふためく。
そもそもケンカもできないお人よしの彼に、女が泣いたときの対応なんて思いつくはずもないわな。
「ちょっ、ちょっと!何で泣くんだよ?
オレ、何かしたか?」
啓太の問いに、3人は涙を流しながらそれを否定した。
「いっ・・・いえっ、違います」
「ぐすっ、う・・・生まれてからこんなに自分たちの事を、ひっく」
「か・・・考えてくれた人なんていなかったから・・・!」
その言葉に啓太は驚きを通り越してあきれ果てる。
・・・毎度毎度のことながら、いったい彼女らはどんな生活を送ってきたのやら。
・・・読者のみなさま、ちょっと失礼。
啓太。おい、啓太!
(何だ!?こっちは今忙しいんだ!見てわかれ!)
いや、それもわかるが。
この際だから、今までどんな生活を送ってきたか、聞いたほうがいいんじゃないかね?
一緒に泣いている夢の記憶が戻ったかどーかも含めて。
(あっ!)
私(天の声)に突っ込まれて、啓太はあわてて夢に記憶が戻ったのか、聞き出し始めた。
まったく鈍感な主人公を持つと作者の苦労が耐えんなぁ。
一方その頃。怪人親子改め糸田親子の『製造元』ではある会議が行われていた。
議題は大切な『商品』を逃がした責任者たちへの処罰について、である。
「まったく・・・何という失態だ!我が社の新商品を逃がしてしまうとは!」
日の光も射さぬ暗い部屋の中で、中年の男と思われる声が響く。
その怒声に怯え、震えるのは唯一の照明の下に座る1人の男。
新商品『スイーツ・ホルスタイン』の調教担当者である。
彼は今、自らのしでかした失敗をいかに軽くするかで頭がいっぱいだった。
何しろここは怪人を商品として扱う人身売買組織。
一般のサラリーマンだったら懲戒免職で話は済むが、そうは問屋が卸さない。
まして今回は組織の存続に関わるミスを犯してしまったのだ。
下手をすれば死。いやもしかすると新しい商品の実験台として死ぬよりつらい目にあうかもしれない。
今まで散々悪行を重ねてきた男であったが、その清算をするつもりはさらさらなかった。
「非戦闘型の調教を失敗、さらにその暴走を許した挙げ句に商品を流失・・・。
調教失敗だけならまだしも、これでは・・・ねぇ」