世界の中心で平和を叫ぶ。 36
「まったく・・・」
ぶつくさ文句を言いながら啓太はお茶を用意し、2人に渡す。
「あの・・・これは?」
「どうぞ。安モンですけど飲んでください」
今さら、という感じもするが、とりあえず啓太は2人をもてなしてくれるらしい。
・・・まぁ、彼女たち親子がここまで来る経緯を知っていたらそうそう無碍になんてできないだろうが。
2人はしばらくお茶を眺めていたが、啓太が飲み始めたのを見て、それをマネするように飲み始めた。
茶の間に何とも言えない重い沈黙が流れる。
その沈黙を破ったのは意外にも怪人親子の母であった。
「あの・・・やはりご迷惑でしたでしょうか?」
「はい?」
「いえ・・・。夢さまから聞きました。
私たち怪人は正義の味方からも人間からも嫌われている存在だと」
どうやら2人は夢からこの世界の常識を教わったらしい。
しかし一番常識を知らなきゃいけないヤツが、いったいどうやって教えたのか、はなはだ疑問が残る。
「・・・私たちはやはり生きていてはいけない存在なのでしょうか?」
「・・・お母さん!?」
ポツリとつぶやいた、あまりに重い一言。
その言葉に初めて子供のNA−V5413が口を開いた。
「そんなこと言っちゃダメだよ、お母さん!
あそこから逃げ出すためにいったい何人の仲間が犠牲になったと思ってるの!?」
「わかってる、わかってるわ、私だってそんなこと!
だけど・・・!」
・・・やっぱり組織から脱走してくるくらいだから、それなりのことがあったんだろう。
おそらくこの親子は、この世界に計り知れないほどの希望と憧れを持っていたんだろう。
ここならきっと幸せになれると。
今も犠牲になっているであろう、仲間たちを救えるだろうと。
しかしせっかくやってこれた世界にも、彼女たちの居場所はないときた。
絶望に打ちひしがれるのも当然かもしれない。
啓太もここまで重い話になるとは思ってなかったらしく、居心地悪そうに頭をボリボリ掻いていた。
啓太としては厄介事に関わりたくない。
正直、この世で最も怖い連中にケンカを売るかと思うと、全身が震えるほどに怖い。
人間同士の殴り合いだってイヤなのに。
・・・だけど。
目の前の親子は。
ただ生きたくて。自分たちみたいに生きてみたくて。
でも当たり前のことすらできないと泣いていて。
まるで雨の日に捨てられた小さな子犬のような、そんな目をしていた。