世界の中心で平和を叫ぶ。 31
その範囲はよくそれだけのことができたもんだと思えるほど多岐にわたっていた。
自分の失われた記憶探しから、自分を鍛え上げるためのトレーニング。
さらに啓太の身辺調査からその安全性に至るまで、たった1人で調べ上げたというのだから驚きだ。
「もちろん啓太さまのご命令どおり、足がつかないよう、利用するものも一般的な公共施設などを使いました」
イヤ、それでもすごいって!
ちゃんと裏がないか調べた上でやったんでしょ?
啓太が似たようなことを言うと。
「当然です。啓太さまを幸せにすること。
それこそが私の全てですから」
と当たり前のようにのたまった。
「・・・なあ」
ん?
「・・・夢の所属してた組織ってバカなんじゃねえの?
こんなすごいヤツを捨てるだなんて」
そだね。
・・・ホントは捨てたんじゃないかもしれないが、今それを言うとややこしくなるから黙っておこう。
「・・・その結果わかったこと。それがこの糸の能力です」
夢はそう言うと、指先から音もなく一本の糸を生やした。
「私はこの糸を何かに接続することで、様々な情報を検索できることを知りました」
読者の皆さんは覚えているだろうか?
夢が啓太に初めて抱かれたあの日、自分好みのS○Xをしてほしくて首筋に打ち込んだあのことである。
ちなみに警視庁へのハッキングもこの糸を使ったらしい。
「私がこの2人に出会ったのも、この糸の能力を開発していた最中でした」
そう言うと、2人はペコリと頭を下げた。
「2人とも。啓太さまに挨拶を」
「・・・はい。はじめまして、啓太さま。
私はスイーツ・ホルスタイン種、NA−P6931と申します。
この子は私の娘で、NA−V5413でございます。
ほら、V5413?新しいご主人様にご挨拶なさい?」
「・・・・・・・・・っ、」
しかしV5413と呼ばれた子供は啓太の視線が向けられるなり、あわてて母親の後ろに隠れた。
それにあわてたのは、夢ではなく子供の母親だった。
「も、申し訳ございません、啓太さま!
す、すぐに挨拶させますので・・・!」
「落ち着きなさい。ここはあなたが飼われていた牧場とは違うのよ。
啓太さまの御前で取り乱すな」
「・・・っ?」
啓太は自分の耳を疑った。
人間にはありえない名前だったこととか、2人が親子だったからだとか、そういうことだけではない。
夢が今まで聞いたことがない、おそろしく冷たい声で諌めたからだ。