世界の中心で平和を叫ぶ。 28
「な、なんで?夢は怪人なんでしょ?
だったら俺を守ることくらい・・・」
啓太も同じ考えだったらしい。
しかし夢のほうは悲しげに首を横に振るだけだった。
「残念ながら、戦力差がありすぎるんです。
数から見ても、実力から見ても」
夢はそう言うといつの間にやったのか、怪人化した右手を啓太に見せた。
「お忘れかもしれませんが、今の私は記憶喪失なんです。
完全な変身もできず、どんな能力を持っていたかほとんど思い出せない・・・。
これではお役に立とうにも立てません」
いや、アンタ腹黒なんだからそれくらい何とか・・・。
「警視庁にハッキングしたのも、私の情報や手がかりがあるかと思ってのことです。
しかし成果は上がらず・・・情けない限りです」
「・・・警視庁にハッキングできるだけでもすごいと思う・・・」
「は?」
「いや、何でも」
・・・啓太、おまえの考えは正しい。私もそう思う。
「ですから啓太さまには自警団が必要なのです。
私に成り代わり、啓太さまの身の安全を守る力が・・・!」
そう言って熱く燃え上がる夢。
しかしどうやって自警団を組織する気なのだろう?
相手は怪人率いる悪の秘密組織。
こっちにも怪人がいるから正義の味方には頼れない。
おまけに1LKを維持していくのがやっとの状況。
正直とても自警団なんて作れそうにない。
その疑問は啓太の疑問でもあったらしい。
啓太は私に成り代わって夢に聞いてくれた。
すると夢はご心配なくと言わんばかりのご様子で答えた。
「お金も人員も問題ありません。
資金はすでに準備できてますし、人員の候補はすでに見つかってますし・・・。
あるとすれば基地がないことぐらいですかね」
「い、いつの間にそんな準備を?」
確かに。そんな準備をしていた様子なんて欠片もなかったのに。
「資金はギャンブルで必要分・・・。
人材は野良戦闘員と野良怪人を使おうかと」
「・・・は?」
な、なんつーことを平然と・・・。
い、いやそれより『野良戦闘員』と『野良怪人』って何?
怪人と戦闘員って野良猫や野良犬みたいにその辺を徘徊してんの?
そんな啓太の心情を読み取ったのか、夢が苦笑する。
「野良怪人や野良戦闘員とは、何らかの理由で所属組織から追放された者たちのことです。
彼らの多くは自らの正体を隠し、一般人にまぎれて生活しています」
さすがにそのままの格好で歩き回ることはないらしい。
・・・まぁそんな奴らが平然と町を歩き回っていたら世界中の正義の味方が過労死してしまうわな。
「で・・・でも、こっそり隠れて生きてるのに今さら引っ張りさすなんて・・・」
啓太が不可能とばかりに反論する。・・・コイツ、もしかして・・・。