世界の中心で平和を叫ぶ。 216
――――
その頃。正義の味方総本部ではある男が非難の嵐にあっていた。
「・・・で?敵に武器を奪われた挙句におめおめ逃げ帰ってきたというのかね?」
「も、申し訳ありません・・・」
その男の名前は『正義執行人』ジャスティス・エクスキューショナー。
クロックと戦い敗れ、逃げ去った正義の味方である。
彼は今、悪の組織を前にして逃げ帰った罪を裁かれるために査問会の前に引きずり出されていた。
「まったく最近の正義の味方の堕落は目に余るな。
我々は常に正義の代行者として勝利者であらねばならないというのに、この体たらく。
まったく嘆かわしいことだ」
「せめて敵を撃退してくれれば、君の作った瓦礫の山の言い訳もできたと言うのに」
「も、申し訳ありません。私の力が及ばぬばかりに・・・」
ジャスティスは身も心も平伏して、謝罪の言葉を繰り返す。
その心の奥では自分をこんな屈辱にまみれた苦境に追い込んだ啓太たち(主にクロック)への憎悪が燃え盛っていた。
正義の味方として公然と巨大な力を振るい、賛美と栄光の甘い実を食べ続けていた彼にとって、それは何よりも許しがたい存在であった。
今、彼は正義の味方のライセンスを守るべく必死になっている。
今の地位を失ったが最後、連中に復讐する機会も力も永遠に失われる。
プライドだけは人一倍高い彼にとって、それだけは何としても避けなければならない。
しかし状況はかなり悪いほうに動いており、下手をするとライセンス剥奪の可能性さえ考えられた。
「我々の技術の結晶である武器を奪われ、何の配慮もなく町を破壊。
その上、敵前逃亡と来ては処分を考えるまでもないな」
「・・・!お、お待ちくださいッ!どうか!
どうかもう一度だけチャンスを!
私に名誉を回復するチャンスをお与えくださいッ!」
「バカも休み休み言いたまえ。
君の敗北によって、我々がどれだけの被害をこうむったと思っている?
君が全部その保障をしてくれると言うのかね?」
「ぐっ・・・!」
ジャスティスはこの時初めて、自分がしてきたことの重さを実感した。
そして考えられる中で、最悪の展開が訪れようとしていることも。
「お待ちください。
たった一度の敗北で、ライセンスを剥奪するのはあまりにも急ではありませんか?」
その時だった。
絶望のどん底に落ちた哀れな男に、一筋の光明が差し込んだのは。
「鬼瓦警視正。それはどういうことかね?」
光明の名は鬼瓦。今、討ち倒された部下の仇を討つべく、啓太たちの組織を調べまわっている正義の味方。
そして数いる正義の味方の中でトップクラスの実力と戦歴を持つ歴戦の勇者だった。