PiPi's World 投稿小説

世界の中心で平和を叫ぶ。
官能リレー小説 - SF

の最初へ
 199
 201
の最後へ

世界の中心で平和を叫ぶ。 201


クロックは答えない。
しかしその沈黙が、確実に肯定を意味しているのは啓太でもよくわかった。
それは怪人にとって当然のことなのだろう。
怪人にとってもっともつらいのは主人を失うことだから。
それは自分の存在意義を失うことに等しい。
啓太はその辺を『夢たちは啓太至上主義者』みたいに捉えているが。
だが啓太はその考え方を良しとしない。
正確には自分のために尽くすような人たちを、簡単に失いたくない。
まだ啓太はそれが独占欲なのか、恋愛感情なのかはわからない。
ただこんなくだらない理由で仲間同士で殺しあうなんてバカげてる。
だからベンケイを止めたい。それだけだった。

「・・・ダメだ。アイツを殺すなら攻撃なんて許さない」
「できる限り善処いたします」
「ダメだ。ベンケイを殺さないと約束しない限り許可しない」
「どうかご自愛を。これが私が提示できるギリギリのところなのです」
「・・・オレがピンチのときに限り、攻撃は許す。
 でも殺すことは許さない。コレはおまえの主としての命令だ。
 それでも聞けないか?」

その言葉にクロックは一瞬怯む。
道具である怪人にとって命令は絶対。
それに逆らってはならないと、遺伝子レベルで刷り込まれた本能が警告してくる。
理は明らかにこちらにあるのに――!
クロックはこの時、生まれて初めて自らが怪人であることを呪った。
怪人でなければ主の暴走を止められるというのに・・・!

「承、知・・・いたしまし・・・た」

クロックは搾り出すような声で、しぶしぶ了承した。
それが自分の意思とは違うものであることはよくわかった。

「ゴメンな、クロック。
 オレのわがまま聞いてもらって」
「でし、たら・・・。今すぐにでもおやめください・・・!
 私はあなたを失いたくないのです・・・!」

愛の告白じみた悲痛な願い。
啓太はその言葉に困ったような顔をすると微笑んでこう言った。

「悪い。オレ、オマエがオレを失いたくないのと同じように、ベンケイも死なせたくないんだ」
「――ッ!!」

その言葉にクロックは自分のあまりのふがいなさに奥歯を噛み締め、血がにじむほどに手を握りしめる。

「クロック。それじゃ最短ルートでベンケイのところに連れて行ってくれ。
 早く止めないと大変なことになるから」

聞きなれているはずの啓太の言葉。
それは一言一句が処刑宣告のようにクロックには聞こえていた。

SNSでこの小説を紹介

SFの他のリレー小説

こちらから小説を探す