世界の中心で平和を叫ぶ。 187
「母さん、あのさ〜」ピィピィピィ〜
啓太が京子に夢達の良さをアピールしようとした時、京子の携帯が鳴った。
「ハイ、乱宮です。はい、はい、解りました。」
通話を終えた京子の顔は申し訳ない顔をしていた。
「ごめん啓太、急な取材が入っちゃったわ。急いで会社に戻るわね。」
「『急な取材』?めずらしいな。
母さんが出張らなきゃいけないほどのネタなの?」
啓太は少し驚いたように京子に聞く。
これでも京子は、編集部では敏腕の編集者として一目置かれている。
そんな彼女が怪人付きとは言え、息子との団欒を蹴ってまで行かなきゃならないネタとは一体何なのだろう?
京子は話すべきか一瞬迷うが、すぐに他でもない息子の質問に答えてくれた。
「血みどろの怪人が街中で大暴れしているらしいの。
正義の味方にやりあっている写真を撮ってきてくれって言われちゃって。
ゴメンね、啓太。今日1日くらいはあなたと一緒にいたかったんだけど」
「いいよ、いいよ。気にしないで。
それより母さんこそ無理してケガなんかしないでね!」
むしろさっさと出て行ってくれたほうが望ましい。
啓太は目に見えない怪人たちの激しい攻防にすっかり体力を使い果たしていた。
「大丈夫!まだ私はドジ踏むほどもうろくしてないモノ。
それじゃみなさん、私はこれで失礼します。
これからも啓太のことをよろしくお願いしますね?」
京子は夢たちにそれだけ言うと、あわただしく飛び出していった。
・・・ミッション、クリアー。
そんなフレーズが啓太の脳裏をよぎる。
しかし啓太が安心するのはまだ早い。
エキストラミッションとも言うべき事態が、啓太の知らないところですでに始まっていたことを、啓太は気づいていなかった。