世界の中心で平和を叫ぶ。 178
雑誌の編集者という職業柄、一般人以上に知りすぎている彼女は夢の巧みな話術でまんまとだまされてしまう。
生半可な知識や情報は、逆効果になりかねないという典型的なパターンである。
「・・・それでその時に何かとお世話になった啓太さんにお礼をしたかったので、ご無理を言って同じ住人の糸田さんたちと一緒に京子さんのお迎えに来させていただいたんです。
ですよね?」
「えっ!え、ええっ!!そ、そうです!」
「す・・・すみません!
見ず知らずの私たちが失礼しちゃって・・・!」
いきなり夢に振られ、動揺しつつも受け答えする鈴と空。
すると夢の話術ですっかり警戒を解いた京子は柔らかな笑顔を浮かべながらこう言った。
「いえいえ、そんなことはありません。
あの子、人見知りの激しいところがあるものですから、うまくやっているのかと心配していたんですが・・・。
よけいなお世話だったみたいですね。
こんなキレイなお嬢さん方に囲まれて、私の息子も幸せ者です」
「「「『キレイな、お嬢さん』・・・!」」」
その言葉に3人は内心思わずガッツポーズ。
自分が他の怪人たちより一歩先に出れたことを確信する。
お世辞である可能性など考えもせずに。
「い・・・イヤですわ、京子さん。
さぁ、早く行きましょう?
啓太さんが首を長くして待っているでしょうから」
「そ・・・そうですね!早く行きましょう!」
「あ、京子さん、荷物お持ちしましょうか?」
京子にほめられ、気をよくした3人は照れつつも京子を風上にも置かない様子で啓太の家へと案内する。
もちろん、道すがら京子にもっといい印象を与えようと画策しながら・・・。
――――
「・・・・・・(夢たち3人)」
「・・・・・・(雅と刀)」
で、現在。
今、啓太の家は見えない火花の飛び散る激戦地となっていた。
(おっ・・・重い!何なんだ、この空気の重さは?)
啓太のみならず、事情を飲み込めてない京子も不穏な空気をおぼろげながら感じているらしく、何やら落ち着かない様子でキョロキョロ部屋を見回している。
そんな一触即発の空気の中、雅が動いた。
「啓太。こちらの方は?」
「あ、ああ。この人は乱宮京子。オレの母さんだよ。
母さん。この人たちはこのマンションに住んでいる人たちで・・・」
「小森雅」
「黒羽刀と申します。啓太さんにはいつもお世話になっております」
2人は軽く自己紹介をすると、雅は軽く、刀は深々と京子に頭を下げる。
それに対し、京子は
「これはこれはご丁寧に・・・」
などと言いながら挨拶を返す。
しかしその背後で、夢たちが何かに気づき啓太に抗議のアイコンタクトを送る。