世界の中心で平和を叫ぶ。 166
事実、その心配は当たっていた。
ただしその予感は彼女たちのみならず、出てきた第2の我が家である基地でもドンパチやってるとは思っていなかったが。
ではまずイブたちの様子を見てみよう。
――――
「ハーッ、ハーッ・・・!ハーッ・・・!く、くそぉっ・・・!」
「残念でしたね、ベンケイ。
・・・いえ、むしろよくやったとほめるべきでしょうか。
私の幻とイブの無限とも思える数の分身にして、怪力自慢のあなたがここまで戦ったのですから」
そう言うミラージュの視線の先には半死半生の姿となったベンケイが折れた薙刀を杖代わりに立っていた。
左腕はひじから先がなく、全身いたるところに深い傷が痛々しく刻まれている。
常人ならとっくに死んでいてもおかしくないのに、さすがは怪人といったところであろうか?
「だがここまでだ。
身体能力強化型であるオマエには、ミラージュの幻影に抗う術も、私の分身戦術を破る術はない。
おとなしく降伏しろ」
登場以来、初めて長いセリフをしゃべったイブの周囲にはベンケイの仲間たちが意識を失い倒されていた。
ベンケイはボロボロなのに、対するイブたちはイブの衣服が破れている程度で、傷らしい傷すら負っていない。
真正面の戦闘を得意とするベンケイと違い、トリッキーな戦闘を得意とする彼女らとは言え、こうも実力の差を見せられると少々怖いものを感じてくる。
「ふふっ・・・。言ったはずだ。
拙者たちは全てを覚悟の上で立ち上がったと」
「ではどうすると言うのです?
このまま死ぬまでなぶられ続けるとでも言うのですか?」
圧倒的な不利な状況にもかかわらず、いまだに笑顔を浮かべるベンケイに、2人は何かイヤなモノを感じた。
「ふふふ・・・。できればこの手は使いたくなかったが・・・。
許せよ。これを外した拙者は今まで以上に手加減が利かぬでな」
ベンケイは不敵な笑みを浮かべると、持っていた薙刀を持ち替え、勢いよく自らの腹をかっさばいた!
鍛え上げられた肉体は折れた薙刀を貫通させることなく、深々と突き刺さっている。
「!! ベンケイ!あなたまさか・・・!」
「ムリヤリ封印を解くつもりか・・・!?」
突然の自決に、イブたちは驚きの声を上げる。
彼女らの言う『封印』とは、一体何のことだろう?
「く・・・ふふ・・・っ、そ・・・の、とおっ・・・り!」
そんな中、自らの身体を切り裂きながらベンケイは笑う。
正気とは思えない行動をしながら笑うその姿はとても不気味で、まるで何か呪いでもかけようとしているかのようであった。
「バカなマネはよしなさい、ベンケイ!
それはあなたの身体を縛る拘束具!
我が身を切り裂くかのような痛みがフィードバックされているはずですよッ!?」