世界の中心で平和を叫ぶ。 127
「そ、そう?あんまりしないでね、お願いだから」
背後から立ち上る無念のオーラと、心なし力の込められた手に危険なモノを感じた啓太は当たり障りのない返事でお茶を濁す。
短い沈黙の後、夢は再び口を開く。
「・・・啓太さま。このたびは本当に申し訳ありませんでした。
啓太さまには、ほとぼりが冷めるまでお待ちいただこうと思っていたのですが・・・。
それが・・・あのようなことになってしまって・・・」
啓太は何のこと、とは聞かなかった。
おそらく啓太に怪人改造を施した経緯のことを言っているのだろう。
元々あれは啓太が勝手に落ち込んで組織から脱走したことが原因なのだが、夢としてはそれすら自分のせいだと思い込んでいるのだ。
だが啓太がいくら説明したところで彼女はそれを理解することはできないだろう。
自分たち怪人の優秀さが、一般人の啓太を苦しめていたなんて。
啓太はわずかな逡巡の後、その口を開く。
「・・・夢」
「は、はいっ?」
「あれはオレが勝手にやったことだ。
おまえらには何の非もない」
「し、しかし・・・」
「くどい。これは命令だ。
この件に関し、自分たちのせいだなどと思うな。
納得できないならもっとオレ(人間)のこと勉強しろ。
自分たちの価値観や判断基準がオレを喜ばせるものでないと知れ」
「は、はい・・・かしこまりました」
「・・・ん。わかればよろしい」
啓太の主人らしい物言いに、夢は緊張した面持ちで答えた。
原因のあるこちらが偉そうに命令するのは少々心が痛いが、仕方がない。
啓太はそう思った。
たぶん、啓太の考える基準と夢たち怪人の考える基準は同じようで全くな異なるものなのだろう。
だから啓太がいくら説明しても、彼女らはまるで理解できない。
なら自分の考える基準をわからせてやればいい。
それができるのはいつのことかわからない。
しかし彼女らは啓太よりもはるかに優秀なのだ。
いつの日か必ず、わかってくれるだろう。
「あ、そうそう。1つ言い忘れてた。
部屋によこす怪人のことなんだけど、1人追加してもらってもいいかな?」
「は、はい?」
思わぬ啓太のご主人様っぷりに、とまどう夢。
しかし啓太の命令を聞いた瞬間、彼女は満面の笑みを浮かべて快諾した。
「かしこまりました。必ずご要望の者をご寝所に行かせます」
「ん。待ってるからな」
そしてそれから啓太があてがわれた寝所に行くまでの間、何一つ問題・ハプニングが起きることはなかった。
それはまるで嵐の前の静けさのような、そんな感じだった。